(第2回)「マネジメント」は管理することではない
國貞克則
●従業員のやる気と能力を高めること
企業の第一の目的が「利益をあげること」だと勘違いしているのと同じくらいに、マネジメントを「管理すること」だと勘違いしている人がたくさんいます。たしかに、古典的なマネジメント理論にしたがえば、マネジメントの機能は「計画」と「進捗管理」です。管理過程学派の始祖であるアンリ・フェイヨールは、彼の著書である『産業ならびに一般の管理』の中で、管理とは「計画」、「組織化」、「指令」、「調整」、「統制」の5つのプロセスであると定義しています。マネジメントにおけるこの管理機能は大切です。何かを達成しようとすれば、明確な計画を立て、それに向かうように管理していかなければなりません。しかし、問題なのは、私たちは通常、他人からの管理が強ければ強いほどやる気を失っていくということです。
第1回のコラムで触れたドラッカー氏は、経営学者であると同時に企業のコンサルティングも多く手がけていました。その彼がある企業のコンサルティングで、企業の幹部に「あなたの仕事は何ですか?」という質問をしました。営業管掌の役員は「売上と利益を上げることだ」、財務管掌の役員は「借入金を減らし財務体質を良くしていくことだ」などと答えていきます。そして、それぞれの役員が各人の仕事の説明をするのを聞き終えてから、ドラッカー氏は「全員、間違っている。皆さんの大切な仕事は、人を訓練して育てること、人を訓練してやる気にさせることではありませんか。やる気のある訓練された従業員がいなければ、顧客に質の高いサービスを提供することはできないのです」と言ったそうです。(『企業のすべては人に始まる』ウィリアム・ポラード著 ダイヤモンド社)
聡明な人は本質の見抜き方が違うなとつくづく感服させられます。マネジャーの大切な仕事は「従業員のやる気と能力を高めること」だと喝破しているのです。
『言志四録』や『重職心得箇条』などを著した幕末の儒学者である佐藤一斎もまた『重職心得箇条』の第二条で同じようなことを言っています。「有司を引立て、気乗り能き様に駆使する事、要務にて候。」つまり、部下たちの意見を尊重して、やる気を起こさせ気持ちよく働かせるのが、上司の大切な仕事であるというのです。そのためには、部下たちの考えより自分の考えのほうが優れていると思っても、大勢に影響がないと思ったら部下たちの考えを採用せよとまで言っています。
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