「我々は何をこの世に遺して逝こうか。金か、事業か、思想か。何人にも遺し得る最大遺物、……それは高尚なる生涯である」これは内村鑑三が若干33歳のときに、「後世への最大遺物」と命名される講演で残した言葉です。
今回は、華やかなキャリアを持ちながら、「みんながうらやましがる仕事」をしてきただけではないか、と悩まれている質問者の方にお答えいたします。冒頭に申し上げた内村鑑三の言葉に、質問者の方へのお答えが凝縮されているかと思いますが、それでは終わってしまうので、少しだけ筆者から補足させていただきます。
最近は東京の外資系金融機関も一昔前のように億プレーヤーがゴロゴロいるという状況もなくなってきたかと思います。直近でも某投資銀行で大きなリストラがあったと聞きます。そうした中で卑近な例ですと、高給と刺激的な仕事にあこがれて米系投資銀行に入社してきたトップ大学卒の若手社員たちも、最近では財閥系商社に転職することもあるようです。
マーケットサイドでさえ、上がつかえていて給料も上がらない中(ジュニアでも2000万円程度はもらえますが)、クビを切られることにビクビクするより、長い人生を考えて安定したところで、周りにも適度に認められながら、やり直したほうがよいという整理のようです。
小金持ちでアガってしまった人は何をする?
もちろんプロパー主義で「君は平7? 平8?」と常時確認するような一部の日系企業において、中途入社組は2級市民扱いです。余談ですが、裏表ありながらも多様性を重んじる多国籍企業とプロパー純血主義から抜け出せない企業では、企業文化に大きな隔たりがあります。
私の元同僚で米系投資銀行のヴァイスプレジデント(VP)だった女性が高いタイトルで日系に移った際に、「おじさんたちがみんな同じ顔と格好で見分けがつかない」と悩みつつ、「彼らは中途の自分をどう扱っていいかまったくわからないみたい」とのコメントを残していました。せっかく稼げる人を採用したのに、もったいないことです。元同僚はほどなく辞めました。東京のシェリル・サンドバーグはなかなか大変です。
話を戻しますと、失礼ながら質問者のような方には、過去にもたくさんお会いしたことがあります。30代後半くらいで小金持ちになってしまいアガってしまった人です。仕事を辞めて、ジャングルや砂漠に旅行に行ったり、名門コースでゴルフざんまいに過ごした後にやることがなくなって、宇宙までは行けないので、デイトレードを始めたり、不動産投資に手を出したりする例です。
リーマンショック前は投資銀行を辞めた人が、専門ではない不動産投資にノンリコースローンでなく「個人」で手を出してだいぶやられました。自己資金のほかに(ガーデンリーブ中に現職の給与水準を使って)借り入れでレバレッジをかけ不動産で運用していたら、リーマンショックが来たのです。やられた後の不動産は競売にかけられ、それを以前にいた投資銀行が買ったという落語のような話もありました。株式担保で現金を工面していた人もたくさんやられました。稼ぎが多い人はボラティリティも高く、人生のバランスシートはバランスするようで、吹っ飛ばすときも大きいようです。
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