日米首脳の蜜月こそが日本経済の「足かせ」だ 米国の戦略目標は、再び「日本封じ込め」へ

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このような対米従属のありさまを、日本人は「親米」と呼んでごまかしているが、海外の研究者たちはもっと率直で、たとえばジョン・ダワーは「従属的独立」、ガバン・マコーマックやマイケル・マスタンドゥノは「属国」、ズビグニュー・ブレジンスキーは「保護領」と呼んでいる。

しかも、米国が要求した構造改革は、本来は、インフレ対策である。市場競争の促進によるデフレ圧力によってインフレを退治しようという政策が、構造改革なのだ。1980年代の英サッチャー政権や米レーガン政権が構造改革を進めたのも、当時の英米がインフレに悩んでいたからである。

ところが日本は、デフレにもかかわらず、インフレ対策であるはずの構造改革を推進し続けた。長期のデフレ不況から抜け出せなくなったのも当然である。

このように、日本経済は、冷戦末期以降の米国の地政経済学的戦略によって、着実に弱体化させられてきたことがわかる。それは、日米関係がよく、両国首脳の間に信頼関係があるときであっても同じである。冷戦終結後から平成不況が続いているのも、偶然の一致ではない。

トランプと仲良くしても日本の弱体化は避けられない

さて、トランプ政権の下で、日本経済はどうなるのであろうか。地政経済学的分析に基づくならば、予測はさほど難しくない。

地政学的には、米国が「世界の警察官」たることを放棄しつつある中、日本は、中国や北朝鮮といった地政学的脅威にさらされながら、なお日米同盟に依存している。

経済学的には、トランプ政権はかつてなく露骨な「米国第一」を掲げて、日本の貿易黒字を非難し、2国間の経済交渉を要求している。

この日米関係の地政学と経済学が結び付くのは、ほぼ必然である。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が評するように「米国の軍事支援に依存している以上、日本には、それが誰であれ米国大統領と協力する道を見つける以外に選択肢はほとんどない」のだ。

実際、日米首脳会談に先立って、ジェームズ・マティス国防長官が訪日した。2月10日の日米共同声明においては、尖閣諸島に対する日米安全保障条約第五条の適用の確認(何度、確認すればよいのか!)とともに、日米間の経済対話の創設が盛り込まれた。いずれも、米国の地政経済学的戦略に日本が封じ込められていることを如実に物語っている。

そして親米派や構造改革派が何と言おうが、米国の地政経済学的戦略は、日本経済を確実に弱体化させてきたのである。それは、トランプ政権の下でさらに決定的なものとなろう。これは構造的な問題であって、日米首脳が信頼関係を構築すれば回避できるといった類のものではない。

この日米関係の地政経済学的構造から抜け出すには、どうしたらよいか。まずは「強兵」なき「富国」などはあり得ないという厳しい現実を直視することが、その第一歩となる。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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