ISに追われ世界に散る「ヤズディ教徒」の行方 アメリカの為に働いたのに…突然の入国禁止

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ダーシュに攻撃を受けたヤズディは現在、アメリカだけではなく世界各地へ散らばっている。昨年、私はドイツを3度訪れて避難生活を送るヤズディたちを取材した。ドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州では、ダーシュに拉致された女性や子どもたち約1000人を州内の約20カ所の施設で受け入れる支援プログラムを行っている。渡航費や住居費、医療費、ドイツ語を学ぶための教育支援などは、すべて州政府が負担をしている。

4月、ドイツで6組のカップルの結婚式が開催された。新婦は全員、ダーシュに拘束され人身売買の被害に遭った女性たちだった。

ドイツでは、ダーシュの戦闘員と結婚を強要されたヤズディ女性たちを新婦とする盛大な結婚式が挙げられた。彼女も、ドイツに渡ってから出会ったヤズディの男性と結婚をすることになった(撮影:筆者)

パーティが開催された会場には、ドイツに避難してきた沢山のシンガル出身ヤズディや、長年ドイツで暮らしてきたトルコ出身のヤズディなど2000人ほどが集まった。朝5時から、ボランティアで新婦のヘアメークを担当したのも、シリア出身のヤズディの中年女性だった。

さらに、何十年も前のサダム・フセイン政権時代にイラクからドイツへ逃れた、当時は幼かったヤズディたちが、今ではドイツ国内でそれぞれ医師や弁護士などとして独立し、新しくドイツへ逃れてくるヤズディたちを支援する活動を始めていた。

約30年前にシンガル山南麓のテルアズィル村からドイツに渡った60代の女性は、ドイツのモダンな自宅で暮らす現在でも、ヤズディ女性が着用する伝統的な白い衣服を毎日着ている。「今ではドイツ語も流暢に話せるようになりました。ですが、1日も欠かさずにこの白い衣服を着ているんです。故郷のシンガルのことを忘れた日はありません」と話していた。

ドイツ南部の街、シュツットガルトのトルコ料理店のウエーターや、中部ハノーファー駅の中国料理店でレジの近くで調理をしていたシェフの男性も、長年ドイツに暮らすイラク出身のヤズディだった。私がシンガルで取材をしていたことを伝えると、2人とも「食事代は受け取れない」と言ってきた。

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