ISに追われ世界に散る「ヤズディ教徒」の行方 アメリカの為に働いたのに…突然の入国禁止
2014年8月3日、イラク北西部ニナワ県のシンガル山周辺のヤズディの村々がIS(以下、ダーシュ)に攻撃された。3人とその家族も、村を追われてクルド人自治区の都市ドホーク近郊の小さな民家を借り、避難生活を送っていた。私は、2015年2月からイラクに滞在し、ISに追われたヤズディの人々の取材をしてきた。その度に、3人の家族が暮らす民家に泊まらせてもらっていた。
昨年夏、ハサンは妻と2人の幼い息子とともに、シフォックは昨年結婚した妻とともに、アメリカ・ネブラスカ州へと渡った。そしてナワフも、クルド人自治区のアメリカン大学を首席で卒業し、妻をイラクに残して渡米した。
アメリカ政府は、米軍従軍通訳として活動し、ダーシュに攻撃を受けたヤズディとその家族に対し、入国を認めてきたのだ。イラクからアメリカまでの渡航費、住居なども支援し、グリーンカード(外国人永住権)も発給している。アメリカでは、元米軍通訳のヤズディ男性約100人とその家族たちが、すでに生活を始めているという。
ところが、ヤズディたちのアメリカ生活がようやく落ち着いてきた矢先にトランプ政権へ移行。それでも、ナワフはすでに自身がグリーンカードを所得しているから大丈夫だと、妻を迎える準備をしていた。そんな中で出された大統領令だった。
妻ライラの入国が却下されてから、ナワフはライラの入国を認めてもらうために下院議員のジェフ・フォーテンベリー氏に直接面会し、ライラの入国を頼んだという。さらにワシントン州の連邦地方裁判所が大統領令の即時停止を命じる仮処分を決定したこともあり、1週間後にようやくライラはアメリカに到着することができた。2月3日、ナワフは空港で大きな花束を持ってライラを迎えた。
ヤズディ教徒はトランプを支持していたのに
昨年夏、トランプがまだ大統領候補者だったときは、驚いたことに当時イラクで取材していたヤズディのほとんどがトランプを支持していた。実に単純ではあるが、トランプが政策として掲げるテロ組織掃討のための移民排斥において、ヤズディの多くは、「イラク人ではあってもヤズディ民族である自分たちはその中には組み込まれない」と信じていたからだ。
それゆえなおさら、ヤズディの友人たちは、今回の大統領令に対して相当失望していた。「これまで、米軍のために命を懸けて働いたのに、トランプ政権になった途端に僕たちもテロリストと一緒にされてしまったんだ。ダーシュの攻撃を受けて5000人近い仲間たちが殺されているのに」と話していた。
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