「1ドル110円、日経平均500円安」の現実味 リスクは10日の日米首脳会談前にもある

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ポイントは、トランプ大統領の前出の発言のうち「何年も何をしてきたか」が、具体的にどんな行為を指すのか、だ。政府・日銀が最後に為替介入(外国為替平衡操作)を実施したのは、民主党政権時代。2011年の、11月1日から4日にかけての4日間である。この年は3月11日の東日本大震災発生などを受けた投機的な円高を抑制するために、3月18日に6925億円(協調介入)、8月5日4兆5129億円、10月31日8兆0722億円、11月1兆円超の、合計4回もの為替介入を実施した。

2011年11月に実施した最後の為替介入からすでに5年超経過している。「何をしてきたか」は、さすがに為替介入ではないだろう。とすれば、資金供給に関するコメントも発していることから、日銀による金融政策を指していると考えたほうがよさそうだ。

トランプ政権は中国、ドイツ、日本などの貿易黒字国は通貨安を誘導し、貿易競争で優位な立場にあると強く批判していることもあり、10日の日米首脳会談は、安倍首相と同席が予定されている麻生財務相が、トランプ大統領に対して日本の経済政策を説明するもようだ。市場では金融緩和策による円安進行は「アベノミクス」の根幹を形成するとの見方がある。米国側の理解が得られない場合には、円高・株安の相場展開となる可能性がある。

日米首脳会談前の「米国貿易収支」に注目

「日本が苦戦を強いられる日米首脳会談後」というシナリオでの下値として、ドル円は110円、日経平均は1万8500円を挙げたが、ドル円に関しては、テクニカル指標の一つとしても使用される一目均衡表の雲の下限が位置している水準(日足ベース)が110円であるからだ。また日経平均の根拠としては、1万8500円に約3カ月の売買コストである75日移動平均線が位置しているからだ。

売り圧力が強まった際、こうした「テクニカルライン」が意識されるケースは多々ある。一国の大統領が、首脳同士の会談でほかの国の金融政策に不満及び是正を促すこと、つまり内政干渉を本当に実施するのか怪しいところだが、有言実行のトランプ大統領ならあり得そうだ。

こうした流れを考慮すると、東京時間の7日22時30分に発表される12月の米国の貿易収支は要注目となろう。市場予想は450億ドルの貿易赤字で、赤字額は11月の452億ドルに近い水準になる見込みだ。市場予想と一致したとしても、貿易赤字に神経質となっているトランプ大統領が、ツイッターで大規模な貿易赤字を問題視するかもしれない。

貿易赤字という重要な経済統計が発表されて、トランプ大統領が何もコメントしないということはないだろう。10日の日米首脳会談を前に、まずは7日の日米貿易赤字の結果、そして、その結果を受けたトランプ大統領の口撃に警戒となりそうだ。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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