トランプは中国抜きで北朝鮮を止められない 米本土への核攻撃阻止には現実路線が不可欠

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また韓国では汚職問題が朴槿恵(パククネ)大統領への弾劾訴追で最高潮に達し、5月にも大統領選挙が行われる見込みとなった。韓国の政治的な先行きは不透明で、ここ数年は良好だった日本との関係も悪化している。

トランプ氏がこうした複雑な状況下で核兵器の撤廃を北朝鮮にさせるには、以下の明確かつ重要な要素が不可欠となる。

まず米国は、東アジアの有力な同盟国である日韓と強力な関係を維持しなければならない。

新政権は貿易や軍事協力などの面で、この2カ国ととともに目標を追求しなければならない。日韓はいずれも世論の変化に流されやすい。今年が波乱の一年となりそうな韓国では特に、国民の不満が爆発しないよう米国は注意を払うべきだ。

さらに中国との関係をさばいていくのは、日韓両国を相手にするのとは比較にならないほど難しい。中国にとっての北朝鮮問題は、体制崩壊に伴い難民の波に悩まされる程度では済まない。

北朝鮮についての中国当局者の考え方は多様だ。だが重要なのは、北朝鮮体制が崩壊し韓国が実質的に吸収すれば、中国の中核的な利益は脅かされ、米国に対する立場も不利になってしまうことだ。

優先順位をしっかり定めよ

米大統領選の後、トランプ氏とその顧問は、中国の戦略的立場をひっくり返す最善の方法は、「一つの中国」を含めた過去の政策すベてを見直すことだと結論づけたようだ。この姿勢の背景には、米国が強硬姿勢を貫けば、いずれ中国から譲歩を引き出せるという考えがある。

だが、トランプ氏の言葉を借りるならば「そうはならない」。中国は従属的な立場に甘んじるような国ではなく、米国の新政権にそれ相応の圧力をかける手段を有している。長きにわたって沈静化していた問題を蒸し返すことは、米中関係に資するどころか、互いの不信感を増幅させるだけだ。

政策を運営するに当たっては、優先順位を定めることが肝要だ。米国の国益にとって、北朝鮮の脅威を無効化するよりも、中国から通商面でいくつかの譲歩を引き出すほうが重要だといえるのだろうか。

週刊東洋経済2月11日号

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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