「アップルOB」がやたら集まる新興企業の正体 社員の6割以上がアップル出身
「アップルでは、何かを決める権限がある人はごく一握りだった。それ以外の社員は、(トップが決めたことを)実行するだけだ」と、パールのリシャブ・バルガバ部長(ハードウエア担当)は言う。これに対してパールのエンジニアは、新製品やその機能、プロダクトデザインについて発言権がある。
アップルは社員の独創性を失わせる?
アップルは、画期的なスマートフォンやコンピュータを生み出してきたが、アップル出身者がスタートアップを立ち上げた例はわずかだ。それはグーグルやフェイスブックの出身者と比べるとはっきりわかる。
モバイル広告会社クアトロ・ワイヤレス(Quattro Wireless)の創業者で、同社を2010年にアップルに売却したのを機に、4年ほどアップルに在籍したエスワル・プリヤダルシャンの言葉は含蓄に富んでいる。プリヤダルシャンは、アップルではデザインや審美性を学べたが、社内の激しい競争や、極めて焦点の絞られた業務、そしてトップダウン式の意思決定は、社員の冒険心を奪っていると指摘する。
その後、新たなスタートアップ、ボットセントラル(BotCentral)を立ち上げたプリヤダルシャンは、アップルは「僧侶戦士(教会や寺院に所属する戦士)」の集まりだと語る。「僧侶戦士は文句を言わず、命令に黙々と従う」。
ここ数年、アップル出身者が立ち上げたスタートアップで最も成功したネスト・ラボ(Nest Labs)が生まれたのは、創業者のトニー・ファデルとマット・ロジャースがアップルで、彼らの開発した小型サーモスタットに興味はないと言われたことがきっかけだった。
「猛烈な成長、偉大なプロダクト、多くのイノベーションなど、アップルは仕事をする場所としては最高だ」と、ロジャースは言う。彼は2014年にネストがアルファベット(グーグル)に32億ドルで買収された後も、ネストにとどまった。「でも、アップルは、『クリスマス商戦に向けて次のiPhoneをどう仕上げるか』で頭がいっぱいだ」。
ネストも、アルファベットの傘下に入って以来、経営陣の内部抗争、プロダクトの発売遅延、そしてがっかりする売り上げなど、さまざまな問題に直面した。これに対して、パールはネストの得た教訓の多くを吸収したとロジャースは語る。それはアップルの優秀な人材を雇い入れることであり、独自のハードウエアとソフトウエアを支配すること、オープンで社員に権限を与えるカルチャーをつくること、コンスタントに製品をアップグレードすることなどだ。
アップルは、パールにかなりの社員を引き抜かれているが、パールに対して悪感情はないらしい。
「パール・オートは、iPhoneのエコシステムを動かす独創性とイノベーションを象徴する最高の例だ」と、アップルの広報担当者ジョシュ・ローゼンストックは余裕を見せる。「アップルとしては、彼らが新しい製品を生み出して大きな成功を収めることを祈っている」。
(執筆:Vindu Goel記者、翻訳:藤原朝子)
© 2017 New York Times News Service
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