中国の「不動産バブル」は、なぜ冷めないのか 大都市のマンションが超人気なワケ
さらに、賃借人の立場も弱いことも、マイホーム熱の一因だ。日本の賃貸市場は発達しており、認可された不動産仲介業者であれば一定の信頼ができる。また、法律も「賃借人」の権利を保護してくれる。一方、中国の賃貸市場はまだスタート段階であり、安心して取引ができないのが実情だ。良好な賃貸物件が少ないので、賃借人の立場が弱く、賃貸市場は「売り手市場」である。
賃貸人に「息子が結婚するので、来月からここをリフォームしたい。月末までに出て行ってほしい」「最近この辺の住宅価格がずっと上がっているの。家賃を来月から20%アップしてもらうわ」「この家は売ることになったので、今週いっぱいで消えなさい」と言われたら、賃借人は黙って従うしかない。賃貸は「不安定」「寄宿」「弱者」という言葉を連想させる居住形態なのだ。
住宅への投資熱も価格高騰の原因だ
アンバランスさを作り出しているもう1つの事情は、資産の運用手段が乏しいこともあり、購入した住宅を転売して利益を得ようとする人が非常に多いことである。日本の一般家庭では、今住んでいる「家」を、転売可能な自分の最大の「資産」と思うことがそれほど多くないかもしれない。バブル時代に購入した不動産があっという間に半額になった痛みを経験した方も1人、2人ではないであろう。
もちろん、レジャーや投資用のセカンドハウスを購入する人もいるが、ほとんどの家庭にとって、「住宅」は居住するという意味で価値があり、転売することで儲けようとする意識はあまり強くない。日本では、自立した後、まず賃貸に住み、頭金を貯めて40歳前後に自分の経済能力に見合う住宅を購入し、こつこつ35年間ローンを返済していくのが一般的だ。しかも少子化が進み、住宅の供給数が多くなって「買い手市場」にもなっている。
一方、中国の特に都市部の家庭にとって、住宅は転売して利益を得られる最大の資産という認識だ。不動産資産は中国家計の総資産の7割近くを占める。そして1998年の住宅改革以来、不動産価格は基本的にはずっと右肩上がりを続けていて、購入した時点で将来の利益を期待できる。
台湾・清華大学の報告によると、2006年時点と比較すると2015年の深圳(シンセン)の住宅価格は508.5%で、年平均にして20.4%増である。上海は384.6%(同17.6%増)、北京は380%(同17.5%増)だ。何もせず寝ている間に自分の資産が年々15%以上のペースで増えることほどうれしいことも、なかなかないだろう。不動産価格の高騰のお陰で、中国ではマンションを1戸売れば、子どもの年間1000万円もする留学費用を出すことは「不可能」から「当たり前」にできることに変化し、ついでに米国郊外に戸建て住宅も買えてしまう。
金融商品でも他の投資と比べても、こんなに確実に効率良く収益が上がるものはないだろう。今、買って数年後に転売すれば、そこそこ良い収益を得られるし、転売を考えなくても、今、買わないともう買えなくなるという話になる。まさに、住宅を持たなければ、資産は増えないと言っても過言ではない状況だ。
したがって多くの人が、多少なりとも頭金の余裕ができたら、ローンを組んでもう1軒を買う。そして転売するか、もしくは将来の備えとしてキープする。その結果、住宅価格が高騰していても、それにつれて人々の購買意欲も高まり続けている。人々は、「高過ぎるだろう」と悲鳴を上げながら、自分の資産額もこの相場があってこそ増加しているのだとわかっている。
中国では結婚する際、昔は新郎側が新居である「マイホーム」を用意するのが一般的だったが、離婚する時に住宅分配をめぐる問題があまりにも頻発したので「結婚法」が改正された。改正後には、以前の夫婦半分ずつの所有から、「不動産所有権書」に氏名を登録した人物だけが権利を有することになった。
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