東京の進学校「海城」が学ばせる究極の対応力 即興演劇の授業は何を狙いとしているのか

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

さらに、グループの人数を増やして、数分の簡単な打ち合わせだけで即興劇をつくる訓練をする。3人組で王様のいすを演じたり、4人組でカマキリを演じたり、7人組で理髪店やトイレや駅の改札を演じたり、「覆水盆に返らず」「漁夫の利」などの故事を演じてみたり。たった数分の間に、どんな状況を演じるのか、誰がどんな役あるいはモノを演じるのかを決める。

次に7人のグループごとに、異なるプリントが渡された。信用金庫職員、心臓外科医、食堂の店員などの話が、一人称で書かれた文章だ。それを読み、描かれている状況や思いを演じる。

これも打ち合わせの時間は数分。「オレ、ナレーションやるよ」「オレ、お客さんやるね」と、てきぱきと役割分担を決めていく。1人がリーダーになって役割を割り振るのではなく、一人ひとりが自発的に自分の役割を見つけていくのだ。そこにはすでに、小さな社会ができあがっていた。

演劇には人間であることの特性が凝縮される

同じゲストの話を聞いた同じグループのメンバーでも…

2週目は、おそば屋さんの店主、靴屋さんの店主、中華料理屋さんの店員、機織り教室の先生などが駆け付けてくれた。彼らにインタビューして、彼らの日常を、劇の題材にする。それをもとに一人称の「聞き語り文」を書くところまでがその日の目標。同じゲストの話を聞いた同じグループのメンバーでも、聞き語り文の内容はそれぞれ違う。

3週目にはそれらを組み合わせていよいよ1つの演劇をつくりあげる。まず練習として、(A)ナレーションと動きだけ、(B)台詞と動きだけ、(C)グループの全員で役割分担して状況に応じたメリハリを付けながらナレーションを読むだけなど、制約を設けて、それぞれの制約下でどんな難しさや克服方法があるかを体感する。

「この人とこの人がこういう角度にいたほうが、観客席から状況がわかりやすいよね」

「ナレーションがあれば、ここがラーメン屋だとわかるんだけど、ナレーションがないとわからないよね。そういうときは、せりふに盛り込むんだよ。『あぁ〜、腹減ったぁ〜。おっ、このラーメン屋さん、うまそうだな。入ってみるか』とかね」

次ページ「とりあえず、やってみる」という姿勢
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT