さらに、グループの人数を増やして、数分の簡単な打ち合わせだけで即興劇をつくる訓練をする。3人組で王様のいすを演じたり、4人組でカマキリを演じたり、7人組で理髪店やトイレや駅の改札を演じたり、「覆水盆に返らず」「漁夫の利」などの故事を演じてみたり。たった数分の間に、どんな状況を演じるのか、誰がどんな役あるいはモノを演じるのかを決める。
次に7人のグループごとに、異なるプリントが渡された。信用金庫職員、心臓外科医、食堂の店員などの話が、一人称で書かれた文章だ。それを読み、描かれている状況や思いを演じる。
これも打ち合わせの時間は数分。「オレ、ナレーションやるよ」「オレ、お客さんやるね」と、てきぱきと役割分担を決めていく。1人がリーダーになって役割を割り振るのではなく、一人ひとりが自発的に自分の役割を見つけていくのだ。そこにはすでに、小さな社会ができあがっていた。
演劇には人間であることの特性が凝縮される
2週目は、おそば屋さんの店主、靴屋さんの店主、中華料理屋さんの店員、機織り教室の先生などが駆け付けてくれた。彼らにインタビューして、彼らの日常を、劇の題材にする。それをもとに一人称の「聞き語り文」を書くところまでがその日の目標。同じゲストの話を聞いた同じグループのメンバーでも、聞き語り文の内容はそれぞれ違う。
3週目にはそれらを組み合わせていよいよ1つの演劇をつくりあげる。まず練習として、(A)ナレーションと動きだけ、(B)台詞と動きだけ、(C)グループの全員で役割分担して状況に応じたメリハリを付けながらナレーションを読むだけなど、制約を設けて、それぞれの制約下でどんな難しさや克服方法があるかを体感する。
「この人とこの人がこういう角度にいたほうが、観客席から状況がわかりやすいよね」
「ナレーションがあれば、ここがラーメン屋だとわかるんだけど、ナレーションがないとわからないよね。そういうときは、せりふに盛り込むんだよ。『あぁ〜、腹減ったぁ〜。おっ、このラーメン屋さん、うまそうだな。入ってみるか』とかね」
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