経済失速でも止まらない、中国鉄鋼増産の波紋 あふれ出た在庫がアジアの鋼材市場を攪乱
地方の民営企業が元凶
だが、これまでのところ、効果は限定的なものにとどまる。元凶は地方の民営メーカーだ。中国全土に600社以上あるといわれる民営企業が小規模の高炉(鉄鋼生産の基幹設備)を相次いで立ち上げ、国営大手企業の能力削減を上回るペースで生産量を拡大しているのだ。
大手主体の中国鋼鉄工業協会(CISA)会員企業は中央政府の指示を守り、09年をピークに増産ペースを抑えてきた(図)。一方、中小の民営企業を中心とした非会員企業は、直近の2年間で生産量を大幅に増やしている。
設備投資の金額で見ても、民営企業の増加が目立つ。国有企業が07年の1633億元から11年には1413億元まで縮小したのに対し、民営企業は同じ期間で845億元から2421億元に膨らんでいる。
「地方政府にとって、民営企業は貴重な税収源であり、雇用の受け皿でもある。公言こそしないものの、民営企業の生産拡大を黙認している」(日系の鉄鋼商社幹部)。
大手メーカーはブレーキを踏むのに必死だ。宝鋼集団が設備点検を目的に、高炉1基を7月から3カ月間休止すると発表した。「供給過剰の深刻さを周知させる効果を狙ったのではないか」(業界関係者)との声もあるが、中国全体の生産量に与える影響は小さく、効果は未知数だ。
宝鋼集団と武鋼集団がそれぞれ中国南部で建設を進める大規模製鉄所の工事も遅延している。「整地を終えた程度で、機械の据え付けは進んでいない」(日本メーカー首脳)。
2カ所の大規模製鉄所建設は、中央政府が需給の調整を優先したために着工許可が遅れたといわれる。その一方、許認可を必要としない地方の小規模高炉の立ち上げが進んだ。「最新鋭の製鉄所を早い段階で造っておけば、生産性に劣る中小メーカーが淘汰され、ここまで供給過剰に陥らずに済んだ。中国国内でも、政府の判断ミスに対する批判が出ている」(別の日本メーカー首脳)。
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