トランプ次期政権が日本に「円高」を迫る日 「ドル高前提」の日本株上昇の危うさ

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動きやすいのはおカネであり、動き難いのは実体経済である。多国籍企業が海外に持つ利益を米国に還流させる際の税率を10%に下げるという政策が実現すれば、資金が米国内に還流し、投資や自社株買い、配当金などに使われる可能性はある。

しかし、中国やメキシコに対して高い関税をかけるということが決まっても、それによって中国やメキシコにある生産拠点がすぐに米国内に移されるものではない。こうした投資は長期にわたる計画にそって行われたものであり、税制や金利によって直ちに動かせる資金とは違う。

低支持率が常態化しトランプ政権が長くても4年だという見方が強まれば、実物投資は簡単には動かない。なぜなら、オバマ政権が掲げて来た自由貿易を否定することで誕生するトランプ次期政権が短命に終わるとしたら、トランプの次の政権はまた自由貿易を標榜する政権になる可能性が高くなるからだ。トランプ政権が短命で終わり、4年後に再び大きな政策転換があるとなれば、直ぐには動かないのが賢明な選択の一つになる。

また、トランプ次期大統領が掲げる政策の成否には、為替も重要な要素となって来る。現状は、トランプ政権に対する期待自体がFRB(米連邦準備理事会)の利上げを催促し、さらなるドル高を招きかねないという構図になっている。

次期政権を従来と同じ物差しで計るべきではない

トランプ次期政権に対する期待とFRBによる利上げ観測を背景に、足もとのドル指数は、14年ぶりの高水準にある。だが、米国企業活動に逆風となるドル高をFRBと次期政権が指をくわえて放置するだろうか。次期政権からどのような発言が飛び出すかを想像するのは難しいが、最近のイエレンFRB議長の発言の中で気にかかるのは、米国の自然利子率がかなり低い水準にあるというたぐいのもの。利上げは穏やかなものになるという発言も、こうした認識に基づいたものだともいえる。

そうだとすると、今後FRBの政策の軸足は、ドル高を誘発しかねない利上げから徐々に保有債券の再投資の縮小、停止の方に移っていく可能性があると思われる。利上げも保有債券の再投資の縮小、停止も金融引き締め政策であることには違いはないが、FRBの利上げを前提として動いている市場がどのような反応を示すかはかなり不透明だ。

これらのことを総合的に考えると、トランプ次期政権に対する期待とFRBの利上げ観測を背景としたドル高によって企業業績が回復し、日経平均株価が堅調に推移するというシナリオは、次期政権をこれまでと同じ物差しで評価したうえでのものだといえる。

少なくとも過去8年の政策の多くを大幅に見直すと表明している次期政権の影響を、これまでと同じ物差しで測ろうとしていることこそが、2017年最大のリスクだといえそうだ。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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