だが、日本企業にとってそれ以上に懸念すべき事態は、NAFTAの「解体」によって米国経済、特に、自動車販売が後退することだ。日本の輸出全体の約20%が米国向けだが、そのうち25%は輸送関連製品であり、その大部分が自動車とその関連部品である。日本の自動車メーカーはそれより多く、米国内にある自動車工場を通じて完成品や部品を販売している。
仮に他国からの輸入が突然中止された場合、米国、メキシコいずれの自動車および部品メーカーは操業できなくなる可能性がある。現時点で輸入が中止されることは予想されていないが、NAFTAが解体されれば部品などの価格が突然高騰する可能性があり、大きな混乱につながるおそれがある。そうなれば、米国の部品メーカーに依存している現地の日本企業も打撃を受けることが避けられない。
複雑なサプライチェーンは変えられない
テキサス州やカリフォルニア州同様、5大湖周辺で鉄鋼業などの廃れた産業があることから「ラスト(錆びれた)ベルト」と呼ばれる地帯は、米国全体の平均と比較して貿易への依存度が非常に高い。つまり、こうした地帯にある企業が多くの輸出製品を生産しているだけでなく、自社製品を製造するのに輸入品が不可欠なのである。たとえば、米国の貿易額は国内総生産(GDP)の21%であるのに対して、ミシガン州の貿易額(輸出と輸入の合計)は、同州のGDPの39%にも及ぶ。テキサス州やインディアナ州、イリノイ州、カリフォルニア州でもその比率は米国平均より高い。
こうした州における中国、日本、メキシコおよびカナダとの貿易のみを見ても、同様のパターンとなっている。事実、これらの州の貿易の大部分はこの4つの国との間で行われている。 何百万人もの有権者が、メキシコや中国、日本からの輸入を減らしさえすれば、何百万もの製造業の雇用が米国に「戻ってくる」と信じているが、現実には何十年にもわたって構築された複雑なサプライチェーンがあるため、何万もの企業や何百万人もの労働者に悪影響をおよぼすことなく、米国がメキシコや中国依存から脱却することはできないのである。
メキシコのペドロ・アスペ前財務長官がメキシコのソノラにある、米フォードのF-150ピックアップトラックを製造する工場を訪れたときのエピソードがある。アスペが工場長に、そこで製造されているトラック1台のメキシコ製品の割合を尋ねたところ、純粋なメキシコ製部品はわずか25%で、それ以外の40%は米国製、残り30%の半分はカナダ製で、もう半分は日本製だった。一方、米国で製造されているフォードのF-シリーズと中型トラックは、メキシコ製のディーゼルエンジンを使用しているため、仮に多額の関税が課せるようになれば、これらの価格は数千ドル引き上げられることになる。
米国の自動車部品メーカーであるデルファイは、メキシコに7万人の従業員を抱え、年間30億ドルに相当する部品を米国に送っている。デルファイの最高財務責任者(CFO)のジョー・マッサーロは、トランプが当選した直後に「われわれは3日から5日のサプライチェーンの中にある。そのため、(メキシコとのすべての貿易が中断されると)ミシガン州やオハイオ州のトランプ支持者は、1週間以内に職を失うことになるだろう」と発言している。
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