輸入制限が米国を蘇らせると信じている人は、単純な事実に目を向けていない。それはつまり、米国が輸出する製造品の総額の20%は、輸出品を製造する機械や、製品に埋め込まれる部品などの輸入品で構成されているということだ。飛行機や自動車などの輸送設備に関しては、この割合は30%にも達する。少なくとも、輸入品なしでは米企業の国際市場での競争力は低下するだろう。
輸入を減らせば、米国の生産能力も低下することが見込まれる。米国の全輸入品の約60%は、iPhoneやTシャツ、自動車のような最終財ではなく、米国内の製造工程で使用される中間財である。これらは、製品を製造する機械から、製品に組み込まれる部品にまでおよぶ。
賃金が上がらないのは政治的問題のせい
そうであれば、米国企業は中間財を輸入するのではなく、米国内のサプライヤーから調達すればいいと思うかもしれない。が、多くの場合、特に労働集約型のサプライヤーは、製品を非常に高く設定しないかぎり、米国の水準の賃金を維持しながら中間財を製造することはほぼ不可能だ。ラストベル地帯の製造業者の多くは、失業率が非常に低いため、時給わずか15ドルで働いてくれるような熟練工を見つけることはまずできない。
一方、自由貿易の後退は、トランプが標的とする中国やメキシコだけでなく、カナダや日本にも影響をおよぼす。たとえば、米国かメキシコから輸入する全製品の62%は中間財だ。カナダの場合、中間財の割合は70%で、そのうちの25%が「外国産」である。中国の場合は、中間財が50%で、「外国産」が35%。日本は事情が異なり、「外国産」の割合は13%にとどまる。
北米おいて大規模な分業が進んだことで、生活水準を大幅に改善することが可能になった。にもかかわらず、分業が相応の賃金上昇につながらないことが多いのは、貿易それ自体よりもむしろ、米国内の政治的問題と関係している。また、ほとんどの人が国際貿易の増加から恩恵を受ける一方で、確かに「損害」を受ける人もいる。欧州ではこうした人に対して救済措置を行っているが、米国ではそうした対策はされていない。このことも、貿易そのものではなく、米国の政策ミスと関係している。
とはいえ、トランプの勝利が示すように、グローバリゼーションの本当の恩恵を理解せず、こうした犠牲者を軽視している自由貿易主義者たちは、役に立たない解決案を示す扇動的な政治家たちの手の平の上で転がされているだけである。そして、こうした政治家の支持者たちこそが、本当の問題に直面している人たちなのである。
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