世界の大富豪が唸る「名執事」のサービス哲学

コンビニと出版社の勤務経験が基礎になった

――勢いにのって、サービスも順調に……。

新井氏:とはならず、「世界最高のサービスを」と意気込んだものの、最初は実績もなく、私ひとりで開店休業状態でした。お客様はいませんでしたが、求人はたくさん来ました。バトラーを長く経験されている方と、ラグジュアリーホテル出身の方を雇い、その二人からサービスプロトコールや所作を学び、私のノウハウと組み合わせて独自のサービスを準備していました。

執事としての最初のお仕事は、まったく予期せぬタイミングで訪れました。

「あるヨーロッパの大富豪が、日本で快適に過ごせるようなサービスを提供して欲しい」という依頼でした。世界のトップ10に入るような大富豪が、最初のご主人様となり、緊張しなかったと言えば嘘になりますが、とにかく誠心誠意、私たちが培ってきたサービスでお仕えしました。

その大富豪が所有する海辺の別荘でお仕えしていた時、「目の前の木を全部切ってくれ」というオーダーを仰せつかったことがありました。ご主人様のご要望を叶えることが執事の務めですが、目の前の木々は公有のもので、さすがに勝手に切ることは出来ません。ですが、ご主人様はどうしても切って欲しいとリクエストされました。

「目の前の声に耳を傾け、最大限の関心を払う」

やるべきことは、最大限の関心を払うことです

――その「無茶振り」にどう応えられたのでしょう。

新井氏:やるべきことは、今までと同じでした。「目の前の声に耳を傾け、最大限の関心を払う」。大富豪のご主人様は、時にその独自のライフスタイルと同様、ご要望も単純なように見えて複雑だったり、難解だと思えるご要望が実はシンプルな動機だったりと、一風変わっています。

この場合、「目の前の木を全部切って欲しい」という、突拍子もないオーダーに隠されていたのは、「海が見たい」、それも「邸宅から」というものでした。しばらく考えた末、それならば木を切る代わりに、思い切って母屋をもう一階建て増しして海が見えるようにしてはどうか。木を切るよりもさらに良い眺めが得られるとご提案致しました。

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