出世の法則!ホンダ創業者は愛嬌の塊だった

宗一郎を取材した最後の記者が感じたこと

何やら心温まるシーンに心を奪われているうち、はっと自分の使命を忘れているのに気づきました。急ぎ宗一郎に近づき尋ねました。

「ビートの印象はいかがですか?」

そんな幼稚な問いに対して、宗一郎は嫌な顔ひとつ見せず、とつとつと答えてくれました。

「剛性があるんじゃないですか。てめえのものがペチャンコになっても、これはなんともないですよ。強いねぇ、ああ強いよ。剛性が充分にあります。はい、ご苦労さま」

軽のオープンカーはぶつかった時の安全性が課題だが、ビートは剛性があるから安全だと説明してくれたのでした。秘書に支えられて出口のほうに向かった宗一郎は出口のところで知人からゴルフの誘いを受けたらしく、こう答えているのが耳に入ってきました。

「……そう思っているんだが、もう動くのが嫌になっちゃった。やっぱり、年なんだなぁ。でも、行こうかな。連絡を取りなさいよ」

これが、本田宗一郎が公の場に見せた最後の姿となりました。この日から約2カ月半後の8月5日、天に召されました。享年84。病を得て元気な頃のオーラはすでに失われていましたが、どこか憎めない、人柄の温かさのようなものを感じました。

F1マシンの周りをグルグル

実は、もっと元気な頃の彼のエピソードが、ずっと頭の片隅にありました。それはF1レースを担当していた広報マンが、実際に見聞したシーンを語ってくれたものです。F1の貴公子、アイルトン・セナが活躍していた頃、彼が乗ったF1マシンを目の前にして、欣喜雀躍していたというのです。

「にこにこ顔でマシンの前に立ったおやじさん、じっと見つめながら、『すげえなあ』『かっこいいなあ』と叫んでいました。そのうち、マシンの周りをグルグル回り始め、時々立ち止まっては『うーん、うーん』とうなり声を上げています。2、3周もした頃、私たちスタッフに向かって、『ところで、スピードはどのくらい出るんだい』と聞いてくる。『最高で三百数十キロです』と答えると、『へえ、すげえなあ、そんなに出るのか』と感嘆の声を上げながら、またグルグル歩き出す。そして、また何周かしたなと思ったら、『すげえなあ』といかにも嬉しそうで、『おい、最高で何キロ出るんだっけ』と聞いてくる。何度もマシンの周りを歩き回っているうち、結局、4、5回も同じ質問を受けました。大創業者なのに、仕草や台詞だけを見聞きしていると、何とも可愛いというか、子供っぽいというか……」

新車発表会での仕草や台詞にも、彼の天性ともいえる「愛嬌」の片鱗を見ることができたのだと思います。

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