池上彰が愕然とした「誘拐経済」の深すぎる闇 誘拐がテロ組織の資金源になっている!

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こうして「交渉」が行われ、巨額の身代金をせしめたテロ組織は、危惧されたとおり、第2、第3の誘拐を実行します。かくして人質ビジネスは猖獗を極めるのです。

一方、人質になった人は、その人がどこの国籍かで受ける扱いは天と地ほどの違いがあります。イタリアのNGOに所属していた2人の女性がイラクで誘拐され、身代金を要求された末、解放されると、彼女たちは祖国でヒロインとして大歓迎されました。

一方、日本人が人質になると、どんな扱いを受けるのか。2004年4月、イラクで活動していた日本人三人が人質になると、「彼らはヒーローになるどころか、日本の恥だと糾弾され、政府の渡航自粛勧告を無視して拉致されたのだから自業自得だとののしられた」のです。イタリアと日本は、どうしてここまで違うのでしょうか。

人質を取って身代金を要求するとカネになる。犯罪者たちや過激派テロリストたちは、大いなる“ビジネスチャンス”を見いだしました。「人道支援活動家と国連スタッフが最高のターゲットとされたのも一時期のことで、いまや欧米のパスポートを持っている人間なら誰でも、大金をもたらす獲物と見なされている」

恐るべきことです。

移民や難民を輸送する「密入国ビジネス」

当初、中東や北アフリカで起きていた誘拐は、やがてソマリア沖の海賊たちも手掛けるようになります。海賊となると、陸上での単純な誘拐と異なり、多額の初期投資が必要になります。海賊ビジネスは「初期資本主義の古典的な投資モデルに近い」ということになるのです。

こうして誘拐ビジネスが発展すると、今度は移民や難民を輸送する商売にまで手を伸ばします。密入国ビジネスです。

2015年から翌年にかけて、ヨーロッパには多数の難民が押し寄せました。北アフリカから地中海を渡ってイタリアやギリシャを目指す難民たち。そこには、難民たちから手数料をせしめて船に乗り込ませる犯罪者集団がいました。

このビジネスは、わざわざ誘拐をする必要がありません。ヨーロッパに渡りたいと希望する大勢の難民たちを船に押し込めさえすればいいのです。船が途中で転覆し、乗っていた大勢の難民たちが犠牲になろうが、犯罪者集団は痛みを感じません。

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