池上彰が愕然とした「誘拐経済」の深すぎる闇 誘拐がテロ組織の資金源になっている!
後藤さんは「当初、身代金と引き換えにするグループに分類されていた」のに、「2015年1月の安倍首相の中東訪問ですべてが変わる」ことになったというのです。「身代金目当ての人質から外交戦略の駒に転換された」と著者は指摘します。
本書の著者ロレッタ・ナポリオーニ氏は、マネーロンダリングとテロ組織の資金調達に関する研究の専門家です。2015年にはISが単なるテロ組織ではなく、本格的な「国家」を建設しようとしていることをいち早く見抜き、『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』を世に問い、話題になりました。
日々のニュースでは、欧米人が誘拐された、人質になっていた人が解放された、という単発の出来事が伝えられますが、そこには「人質ビジネス」あるいは「身代金ビジネス」が存在しているという事実を分析したのが、この新著『人質の経済学』です。
紛争地に難民や病人を救援するために赴いた援助団体の人が誘拐される。紛争地の悲惨な状況を世界に伝えようと取材に入ったジャーナリストが人質になる。この人たちの一部は解放され、一部は殺害される。その違いは何か。『人質の経済学』は、その境界線を見事に解き明かしています。
秘密裡に巨額の身代金が動いている
人質事件が起きると、次のようなメッセージを聞くことが多いでしょう。
「テロリストとは交渉しない」
これは、身代金を要求したり、政治的要求を突き付けたりする組織が出てくると、世界各国政府が異口同音に発する声明です。テロリストの要求に屈して身代金を支払うと、テロリストが味をしめ、誘拐・人質事件が続発することになるから、というわけです。
テロリストとは交渉しない。ということは、人質になった人が見捨てられることを意味します。しかし、その人質たちの一部は無事に解放されます。なぜか。秘密裡に巨額の身代金が動いているからです。
しかし、各国政府は、身代金の支払いを表向きは否定します。「テロリストと交渉」したことを認めてしまうからです。
誘拐された人物が、国際援助団体のメンバーだった場合、救出できないと、本人が属する国の政府が批判を受けます。批判を受けないようにするため、政府は秘密裡に身代金を支払うのです。ここでは、誘拐された人の属性によって、各国政府が救出のための優先順位をつけているという冷酷な事実を、著者は剔抉(てつけつ)します。
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