「名前を書けば入れる」福岡・立花高の教育論 多くの元不登校生が通う私立高校のやり方

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――こちらへ進学しても、不登校になる生徒もいますよね。

もちろん。でもね、「無理してでも登校しなさい」とは言わないようにしているんです。変な言い方かもしれませんが、安心して不登校でいられる学校でありたい。学校を休む生徒をどのタイミングでどうフォローするか、そこはいつも試行錯誤で、永遠の課題ですね。

――高校周辺の地域と連携することも重視していますね。

地域と密接につながるために、今年から「おたがい様コミュニティー」をスタートしました。地域の方々と月1回会議を開き、授業で講師を務めてもらったり、高校や地域の行事に互いに参加したりしています。今年度は毎週金曜日に、地域の方々と「作業体験学習」をしていて、就職を目指すコースの2・3年生が参加しています。高齢者の住宅で除草したり、手芸や洗車などについて学ぶ10種類のメニューがあります。いろんな人たちと顔の見える関係を築き、交流することで、生徒にもよい変化が現れています。

立花高校の原点にある考え方

――地域の人とはずっと良い関係を続けてきたのですか。

扉が開かれている立花高校の職員室。教員から積極的に生徒に声をかけるようにしているという

以前はお叱りの電話がよくかかってきました。「生徒が煙草を吸っとった」とか。そんな中、数年前に地域のおばあちゃんから「おたくの子が朝から元気にあいさつしてくれて、とても気持ちがよかった」と電話がありました。私はすごくうれしくて、授業中でしたが、放送で全校生徒を体育館に集め、こんな電話があったと報告しました。そしたら「それだけでみんなを集めたんか」と突っ込まれつつも、生徒たちからわーっと拍手がわきおこってね。やっぱりみんな認められるとうれしいんですよ。

「できないことを嘆くより、できていることを認め合う」、これが原点です。われわれは厳しく「あいさつしなさい」なんていう指導はしません。その代わり、生徒を愛おしいという気持ちで教職員が生徒に声かけをしていたら、生徒たちも自然とあいさつしてくれるようになりました。

最近は、地域はもちろん社会から本校へ向けられる目がずいぶん優しくなりました。理解してくださる方がじんわりと増えてきたのだと思います。

――積極的に講演活動もしていますね。

数年前に小さな会合で立花高校について話したところ、講演の依頼がどんどん増えて、今は年間100本近くお話させてもらっています。いろんな方に生徒のことを聞いてもらうのは、大変ありがたい。生徒はそれを知っていて「校長ちゃん、今日も私たちのことを話しに行くと? 気を付けて行ってきいね」と言ってくれます。

――生徒は「校長ちゃん」と呼ぶのですか?

そう呼んでくれます。一般的な感覚では失礼だと思うかもしれませんが、私はそう呼ばれるたびに、生徒のことが愛しくてたまらなくなってしまうんですよ。そんな生徒がいてもいいじゃないですか。苦労してきたこの子たちに、世の中を大らかに変えていく光になってほしい。

今の日本は厳しい社会になっているように思います。何かできないことがあると、その人の努力が足りないと責められて……。学校や仕事へ行くことを当たり前と思っていませんか。お子さんが毎日学校で6時間も授業を受けることは、実はすごいことだと思いませんか。できていることを認め合う社会になってほしい。社会全体に寛容の精神が広まることを願っています。

そして、今も人知れず不登校で苦しむ多くの子どもたちに「キミはキミのままでいいんだよ」と自信を持って伝えたいです。

インタビューの後、校内を見学させてもらった。新築されたばかりのきれいな校舎で、生徒たちはいきいきと過ごしていた。見知らぬ私にも明るくあいさつしてくれる。齋藤校長を見かけて「校長ちゃん、ちょっと聞いてよ~」などと話しかけてくる生徒が何人もいた。
最後に、立花高校の学校案内で見つけた、卒業生の言葉を紹介したい。ここに同校の姿勢が凝縮されていると感じたから。「いろんな人から褒めてもらったことが心からうれしかった」「立花では遅れて行っても「よく来たね」と言われ、まわりの友達の目も温かく3年間があっという間だった」「何事も自由に挑戦させてくれて悩み事も先生と連携を取ることで解消できました。卒業した今だから、愛されていたなと感じます」。
佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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