「欧州の火事」難民問題は対岸に飛び火するか 「バルカンルート」に漂う難民たち<後編>
欧州での難民の扱いを定めた共通ルールに「ダブリン規制」がある。ここでは、最初に難民が到着した国が難民の管理を行うとしていて、たとえどの国に到達しても、難民は最初に入った国に返還され手続きを行わなければならない。
セルビアやマケドニア、クロアチア、ルーマニアなどバルカン半島の国々はシェンゲン協定もダブリン規制もEUとは結んでない。つまり、バルカン諸国から西ヨーロッパを目指せば送還されるリスクは減るし、シェンゲン圏までの素通りを容認する”バルカンルート”を難民は選んだのである。
しかし、予想をはるかに越える膨大な量の難民流入は、シェンゲン協定圏内でも国境封鎖を引き起こす。また、入国地点によらない難民受け入れと割当によって、ダブリン規制も有名無実化してしまった。
一連の難民問題は単なる民族移動のトラブルではなく、「ひとつの共同体」のためにEUが決めたシステム、欧州の理想を根底から揺るがす事態を生み出したのである。
とても川幅の狭い「対岸の火事」
難民たちの問題は、まず人道的な観点から判断されなくてはならないだろう。だが、欧州に押し寄せる”難民”には経済移民も多く混じっている。大半は難民か移民か区別できないグレーゾーンの人たちだし、そもそも貧困から逃れ仕事を求める人々を難民と扱うべきか否か。解決を「人道」だけにまかせていてもきっとらちは明かない。
日本が2015年に認定した難民数は、わずか27人。国際的に批判されるほどの消極的な受け入れ姿勢ゆえ、現在この国への難民流入はほとんどない。
では、海外からの移民はどうか。こちらも他国に比べ圧倒的に低い水準ではあるが、少子高齢化と労働人口減少が進む中、彼らの「安い労働力」なしには立ち行かない産業はすでに多い。
欧州の先進国も同じだった。2000年代に入ってドイツ政府は外国人労働者を積極的に受け入れる方針へと転換し、アラブの移民・難民を経済推進の活力源に大いに利用した。西欧諸国の産業界も「安い労働力」の導入には政権の背中を押したはずだった。
突然沸騰した難民流入に、たしかにヨーロッパの「人道」は右往左往している。一方で、「経済」にはある程度、盛り込まれていた流れだ。EUにとっては外国人の移民労働者は必要な存在として、受け入れに賛成か反対かではなく、どう受け入れるかの議論でしかない(いまさら過剰に移民排斥に傾くと「ブレグジット」である)。
豊かさを維持するために外国人労働者を受け入れ、豊かさを求める経済移民は人道と無縁に国境を越える。日本も例外ではない。難民は受け入れなくても”難民”はやってくる。いまのヨーロッパの出来事とは、とても川幅の狭い対岸の火事だ。
最後にもうひとつ。欧州に広がり漂うロマ(=ジプシー)たちの視点を加味すれば、そこには異質な存在との向き合い方が必ず問われる。欧州に比べ、この国が圧倒的に経験なく、意識できない部分かもしれないが。
(写真:すべて著者撮影)
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