フランスは人種差別が蔓延する国に変貌した 首相によるトランプ的発言も問題にならない

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サン・ドニの市会議員マジド・メッサオダン氏

――若者たちがイスラム過激派に心酔しないようにするには、どうするか。

一つには疎外化しない事だ。イスラム教徒の若者たちは日々、差別に遭遇している。例えば職探しだ。

履歴書を出す時、ファーストネームが「フランソワ」であれば仕事を見つけやすい。アラブ移民系、イスラム教徒であることが想像される「マジド」では面接まで行かない。黒人であればさらに就職は難しい。

フランスでは公的な場所でイスラム教徒の女性がベールを着用することを禁じている。ベールを被る女性は就職の道が狭められている、というより就職は不可能といっていいかもしれない。フランスは人種差別が強い国だと言わざるを得ない。

「フランス人」として見られることは少ない

広場にて。ろうそくにあかりを灯す市民

――ご自身の体験はどうか。

私自身は特に差別を受けた経験はないのだが、友人、知人から差別の具体例を聞くことは多い。

私はフランスで生まれ育ち、フランスの公的教育機関で学び、大学にも行った。今は市議会議員だ。それでも私を個人的に知らない人はいまだに「非フランス人」という視線で見る。「フランス人」として見られることは少ない。

――今年夏、「ブルキニ」の事件が起きた(自治体の一部が、イスラム教徒の女性が海辺で着る、全身を覆う水着「ブルキニ」の着用を禁止した事件)。ブルキニがイスラム・テロを連想させる挑発的な格好として問題視された。後に禁止令は撤回されたが、どう見ていたか。

フランスでは国家が信仰の自由を認めると同時に、いかなる宗教も特別な扱いを受けないこと、公共秩序のために宗教活動を制限することが定められている。

広場に置かれていたろうそくの数々

この法律をイスラム教徒の行動を制限するために使いたいという人がフランスにはたくさんいる。ブルキニの着用禁止も同じ発想だ。

フランスのエリート層の大部分がブルキニは女性の権利を侵害する、イスラム教の過激思想を表していると考えている。こうした人々は女性が何を着たいかは自由だという。しかし、イスラム教徒の女性にとっては着たいものが着られないことを意味する。イスラム教徒の女性には他の女性と同じ権利はない。

フランスのエリート層は、公的な場所ではイスラム教的なものが一切、見えないようにしたいのだろうと思う。フランスではイスラム教徒に対する戦争が起きているように思う。新しい形の、文化の戦争だ。

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