「爆買い終了」でも続くインバウンドの真実 悲観論は「百貨店不振」に引きずられすぎ?

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なぜかと言うと、中国人の可処分所得が年々増加していることに加えて、旅行中の支出意欲は普段よりも高い。昨年、百貨店の売り上げが急増した理由は、一言で言うと、円安で外国人旅行客にとって欧米ブランド品の価格が欧州より安かったからだ。つまり、円安の一時的な恩恵を受けたと言える。

それが、円高に戻りつつある現在だと、ブランド品は欧州で買ったほうが安いので、中国人消費者がそちらに向かうのは当然である。また、中国政府は「代購(代理購入)」の取り締まりを強化するため、税制を変更し、税関での検査を強化したと言われている。その結果、転売を目的とした大量購入は抑制されたが、一般の訪日中国人の消費行動は大きな影響を受けていない。

では、「インバウンド終わり論」がどこから来ているかというと、日本では、インバウンドの勢いをとらえる指標として、百貨店売上高の数字があまりにも頻繁に取り上げられる。そのため、百貨店以外を含む全体の消費金額も同じように下がっている、という誤解を招いているというのが実態だ。

実際には、消費額は堅調に推移している。単に百貨店での買い物が下火になっているだけだ。では、訪日中国人は、おカネをどこで使っているのだろうか。実はその消費行動は「見えにくい」と「小さい」という2つの特徴が鮮明になっている。徐々に知られてきてはいるが、中国人旅行支出の「中身」は、豹変している。ブランド品・爆買いなど買い物金額が減少する一方で、宿泊費、飲食費、交通費の支出の伸び率は高い。

日本を、より深く楽しむ訪日中国人たち

つまり、都市部での買い物にかぎらず地方都市の観光もするようになり、消費活動の幅が広まっている。つまり、今の訪日中国人の行動は、ますます進化し、多様化しているのだ。

先に挙げた消費活動における2つの特徴のうち、ひとつ目は、「見えにくい」。これは、訪日中国人の観光や消費行動が電化製品の購入など、一見してわかりやすい商品の購買活動から変化していることを指している。

まず、観光地での行動では、テレビによく登場するような、赤・紫・緑などカラフルな服を着ているダサいおばさんグループ(中国では、顔色がよく見え、写真映りがよいと思い、旅行中は鮮やかな服装をする人が多い)が、銀座8丁目あたりでうろうろし、スーツケースや炊飯器を持って大騒ぎして、自撮り写真を撮る風景は少しずつ消えている。

一方、電車の隣に座って、ガウチョパンツとスニーカーを履き、ナチュラルメークをしている女性は、英語で駅員に道を尋ねることを目撃するまで、旅行者だとわからない。だが、そうした中国人旅行者は徐々に増えている。

特に現在、来日中国人の中心である20~30代の若者は、越境ECでも買える炊飯器をわざわざ買って持って帰るより、もっと自分の目で日常的な日本に触れて「日本で過ごす」実感を得たいと思ったり、もっと日本独特の奥ゆかしさを感じようとしたりしている。

そうなると、免税店よりドラッグストアやスーパーに行きたい、東京の次は東北に行ってみたい、富士山を背景とした写真より瀬戸内海の美術展に行ってきれいな写真を撮りたい、コンビニのお弁当も、ちょっとよいレストランでも食べてみたい……。つまり、一般の日本人の生活の延長線上にある行動をとろうとするのだ。

さらに、購買行動について言えば、外国人の買物金額を一般的には免税金額で把握することが多いが、上述のとおり、訪日中国人の消費行動が多様化しているため、統計には反映されにくくなっている。

たとえば、家電量販店やドラッグストアでは、外国人観光客向けの8%引きの消費税免税優遇と、日本人向けの10%ポイント還元、あるいは10%引きの会員クーポンがある。日本のことに詳しくない観光客だったら免税優遇を選択するが、SNSで情報を得たり、数回訪れて日本のことをもっと知るようになれば、10%ポイント還元を利用したくなる。そして、日本語がわかる人にメンバー登録してもらい、もっとお得な割引を受けられるようにする。

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