薬のネット販売解禁へ、それでもくすぶる火種 安倍首相が原則解禁を発表。ただ課題は残る

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ところが、会合を重ねても慎重派と推進派の溝はまったく埋まらなかった。慎重派は「市販薬の販売には顔色を見る、においをかぐなど、五感をフルに生かせる対面でのカウンセリング体制が必要」と一貫して主張。対する推進派は「それを義務とするならば(薬の使用者でない人の)代理購入を禁じるべきだし、それが必要なほど副作用リスクが高い市販薬は存在しない」と応戦するなど、議論は平行線のままだった。

結局、肝心のルール作りにメドが立たず、11回目となった5月31日に双方の意見を併記した報告書をまとめて議論は打ち切りになった。検討会の構成員から「無法状態を一刻も早く是正しなければならない状況であることを考えると、罪は重い」(國領二郎・慶応義塾大学教授)との声も上がっていた。

それからわずか5日後に、安倍首相は原則解禁の方針を打ち出した。この動きについて、業界関係者の間では「検討会で、最高裁の判決をひっくり返すような、ネット販売を禁止するに足る事案が出てこなかったことが大きいのではないか」という見方もある。

ルール作りは波乱含み

原則解禁の方針が出たとはいえ、安全性を確保するための販売ルール作りをしなければならない点は変わっていない。第1類、2類のリスクをどう周知するのか、といった課題は残されたままだ。

推進派であるケンコーコムの後藤玄利社長も、政府決定を受けて「ネットと対面のどちらが優れているかという結論のない議論は、もう必要ない。どのようなルールが必要かという本質的な議論を急がねばならない」とコメントしている。

ルールの策定に当たっては、薬剤師など専門家を集めた検討会が再び設けられる可能性が高く、前回と同じく泥仕合に終始する可能性はある。また前回の検討会で厚労省が落としどころとして提示した「テレビ電話を通じた相談応需(購入しようとする人および購入した人の質問や相談に対する情報提供)の義務化」のような、ネット販売事業者の参入のハードルを上げる規制が設けられ、結果として規制緩和が進まないということもありうる。

消費者の利便性と安全性を両立できるルールを、今度こそきちんと作ることができるのか。先行きはまだまだ波乱含みだ。

週刊東洋経済2013年6月15日

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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