だが、時期によっては「質より量」に逆転する。
「比率で言えば、10回のうち1回くらいは数をこなさなければダメ。体が疲れて、思うように振れない状態から打ち始めたとき、初めて体が反応し始める。いわゆるバッティングハイの状態に、一気に指導する。そこまでは、自分で必死になってやらなければダメ」
選手は「質より量」で反応を身に付ける一方、その過程で指導者は彼らの資質を見極めることができる。
「きつい練習に『無理』と言って妥協する人間と、歯を食いしばって踏ん張る人間の差が出る。そこがレギュラーを取れる、取れないの境界線。歯を食いしばれない人間はどうやっても無理なので、何も教えない。同じ練習を繰り返して、食いしばれたときに初めて指導する」
凡人が時として、才能に恵まれた者を凌駕することがあるのは、このメンタリティの差によるところが大きい。強靭な精神があれば、体力や技術は身に付けることができる。対して歯を食いしばれない者は、せっかくの才能を開花させることは難しい。
ただし、佐々木が打ち出しているのは結果至上主義ではない。チーム作りの根幹にあるのは、「組織に落ちこぼれを作るな」という考えだ。
ガラリと変わった野球観
「社会人で野球を続ける選手の多くは、高校、大学とレギュラーでやってきて、控えを経験した者は少ない。そういった選手が試合に出られずにベンチに入ったとき、どうやって腐らせないか。そういう選手がひとりでもいると、弱いチームになる。試合に出ていようが、いまいが、全員が同じ方向を向いて、どうやって優勝に向かっていけるかを考えなければならない」
佐々木がそう考えるようになったきっかけは、1993年の“世紀のトレード”だ。秋山幸二(現ソフトバンク監督)らとの交換で、佐々木はダイエーから西武に移籍した。当時のダイエーがBクラスの常連だったのに対し、西武はリーグ4連覇中と黄金期だった。対照的なチームに移り、佐々木の野球観はガラリと変わった。
「ホークス時代は6、7月になると優勝を狙えなくなるので、個人成績に走るしかないイメージ。対して西武は、個人主義に走る選手が誰もいない。『優勝するため』ではなく、『優勝させるため』に自分が何をすべきかを教えられた」
両球団では、控え選手の意識がまるで異なっていた。ダイエーではコーチの指示がなければ、ベンチに座っている選手ばかり。一方、西武では試合の流れを見て、代打や代走に出る準備を各自が自主的にしていく。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら