元フィリピン大統領が語る対中修交の舞台裏 88歳の特使が中国で行ったこと

✎ 1〜 ✎ 287 ✎ 288 ✎ 289 ✎ 最新
拡大
縮小

私はドゥテルテ大統領に提出した勧告に、こうした優先事項の数々を盛り込んだ。これは私見だが、フィリピンは予備的協議を継続するとともに、信頼関係を構築して妥協点を見いだす機会をつかむために中国大使の任命を早めるべきだ。

こうした点で進展が見られれば、漁業や観光、そして中国の「海のシルクロード」構想実現を支援するインフラに関しての合意を目指すのがよい。言うまでもなく岩礁やサンゴ礁のことだけでなく、戦争と平和について幅広く議論されるべきだ。

国連総会は1年前、第3次世界大戦につながりかねない世界的な武力衝突を避けるための長期戦略の枠組みを示す決議を採択した。中国側との会合で、私のチームはこの決議が現在の両国間の緊張に広範囲にわたって影響していることに気づいた。

中国にとっても平和は不可欠だ

われわれは中国側に、「海はわれわれの生活の改善とともに、将来の人類の生存を保証するために活用されるべきだ。殺し合いや破壊の舞台とするべきではない」と伝えた。幸運なことに、この基本的な認識を中国側も受け入れており、強調さえしてくれた。

今後この認識は、あらゆる種類の対立を回避するための約束へと発展させていくべきだ。仮に中国とフィリピンが戦争を起こせば、国益は著しく損なわれる。両国は多大な富と軍事力を有するが、中国には依然として数千万人の貧困層がいる。彼らの生活を経済の変革を通じてよくするには、平和が不可欠なのだ。

アジアの安全保障には米国が中心的な役割を果たしている。(米国の同盟国のフィリピンなどが)中国と紛争を起こせば、アジア外交にも直ちに波及する可能性がある。

南シナ海に関するすべての議論はこの赤裸々な現実を踏まえ、今後数カ月間、数年間をかけて行っていく必要がある。

2国間協議はときにこじれることもあるだろう。しかし進展させることにこそ、多大な利益がある。

週刊東洋経済10月29日号

フィデル・V・ラモス フィリピン元大統領

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

フィデル・V・ラモス / Fidel V. Ramos

米国の陸軍士官学校を卒業して朝鮮戦争やベトナム戦争に従軍。マルコス独裁体制を打倒した1986年の「ピープル革命」の立役者として政界に登場し、92~98年に大統領となった。東南アジア諸国連合(ASEAN)賢人会議のメンバーも務めた

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT