「愛知の大泉洋」は織田信長? ”愛知県は芸事は弱い”とは言わせない!

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愛知県の文化芸能を盛り上げたい

――水を差すつもりはありませんが、愛知県は発達している製造業に比べて文化芸能は弱いですよね。

そのとおりです。東京や大阪、福岡と比べて明らかに出遅れています。トヨタという屋台骨があるので、ほかのことにあまり力を入れないのかもしれません。名古屋で芝居だけで食べている人はすごく少ない。芸事に命を懸けている人も少ない。悔しいです。

そんな環境では若手も育ちません。舞台の稽古に遅刻したり、期日までにセリフが入って(覚えて)いなかったり。芝居をなめんなよ、遊びじゃないぞと教えてあげたいです。僕も東京で先輩方に教えてもらったので……。

みんなでいいものを作っていければ、必ず波及すると思っています。名古屋でもいいものを作れるんだと証明して、名古屋発の全国ツアーをやってやりたいです。

トレードマークのちょんまげ。信長役を得る前からこのヘアスタイルだ

憲俊さんは意外なほど若々しく、やんちゃで、可愛らしい雰囲気の人だった。考えてみたら僕より2歳年下なのだ。先輩たちの温かくも厳しい指導がなかったら、今でも横柄なお兄ちゃんだったという言葉には、笑ってしまった。

芸能人に限らず、自力で身を立てていくためには、「根拠がない自信と勢い」も必要だと思う。しかし、自信と慢心・怠惰は紙一重だ。自分に枠を作らずに挑戦をし続けながら、一方では地道に努力を重ねなければならない。どうすればいいのだろうか。

憲俊さんが先輩たちから受けた「感謝の心を忘れるな」というアドバイスは、道徳の問題だけではない気がする。むしろ、自信と謙虚さをバランスよく持ち続けるためのスキルという側面が強いのではないか。

感謝といっても顧客や同僚、家族への個人的な気持ちとは限らない。感謝の対象を特定の個人に限定してしまうと、「オレを応援することであの人も利益を得ているのだから、あまり頭を下げる必要はない」という傲慢な態度に陥りやすい。憲俊さんも血気盛んな20代の頃は、「オレだから仕事をくれたんでしょ」という気持ちがあったと明かす。

感謝の範囲をもう少し広げて、「嫌いでない仕事で力を発揮できて、生活費を稼げている」という状況に、時折、祈りを捧げるべきだと僕は思う。今日も元気に働ける社会はありがたい。自分の専門職が成り立つ時代に生まれたこともありがたい。

この気持ちを頭の片隅においておけば、どんなに調子に乗る局面に出会っても、「ありがとうございます。ますます精進します」と素直に言える気がする。感謝は社会にも自分にもメリットがあるのだ。

「名古屋を捨てられない。恩返しをしたい」という憲俊さんの言葉に、虚飾はないと感じた。彼の活躍を全国で見られる日は決して遠くない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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