医者はなぜ予防接種の詳しい話をしないのか そこには「儲かるか否か」という観点がある

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しかし、自費診療である予防接種はどれだけ懇切丁寧に効果や副反応を話したところで、そのワクチンを接種しなければ、医療機関はおカネをもらえません(定期接種は接種を前提に診察し、その日の症状等で接種できなかった場合は地方自治体にその費用を請求することはできます)。そしてワクチン接種から得られる医療機関の利益も元々少ないのです。

ちなみに、麻疹風疹混合ワクチンを1回接種すると、ある地方自治体では医療機関に1万634円支払われます。接種をせず予診だと2800円支払われます。麻疹風疹混合ワクチン1本の仕入れ値は5551円です。なんと原価率は52%!一概に比較はできませんが、ラーメン屋さんにたとえるなら、一杯700円で提供しているラーメンの材料費が350円。人件費や光熱費、家賃などをそれ以外で賄うとしたら、結構大変な話です。

自分や家族を守るために

ですから、予防接種に関して言えば(保険診療も本質的にはそうなのですが)医療機関としては、極力話はせずに回転数をあげなければ成り立っていかないのです。しかし良心的な医者であれば、採算は考えず患者さんの質問にはなるべく丁寧に答えようとしてくれるはずです。

こんなケースもあります。7歳の男の子が、私のクリニックに初めてインフルエンザの予防接種を受けに来ました。お母さんの話を聞くと、他院で毎年インフルエンザの予防接種を受けているが、いつも二の腕全体が腫れ上がってしまう……とのことでした。しかも、予防接種を受けてもインフルエンザにかかることが何回かあったといいます。

副反応の局所反応としては、接種した部位が直径7cm以上腫れると、異常反応となります。その男の子の腕が毎年全体的に腫れ上がるとなれば、異常反応を毎年引き起こしていることになります。

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日本にはインフルエンザの薬も豊富にあります。そして、男の子も年齢的に体力や免疫機能も発達してきたはずなので、「お母さん、もうインフルエンザの予防接種はやめませんか?」と私は提案しました。お母さんは最初こそ納得されない様子でしたが、30分くらい話すとわかってくださいました。

このように任意接種の場合は、接種しなければ、いくら親に30分かけて説明しても医療機関の儲けはゼロです。私の場合はいささか極端な例になるかもしれませんが、ときには採算性を考えずに患者にしっかりと向き合う姿勢を見せてくれる医者、しっかりと質問や相談ができる医者を探しておくことも、自分や家族を守るうえでは欠かせません。

鳥海 佳代子 とりうみ小児科院長

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とりうみ かよこ / Kayoko Toriumi

島根医科大学医学部卒業後、島根医科大学医学部附属病院 小児科、津和野共存病院、東京女子医科大学母子総合医療センター、みさと健和クリニック等を経て、2010年にとりうみこどもクリニック開院。

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