フィリピン麻薬戦争、「殺害リスト」の大問題 容疑者リストは殺害のためのリストなのか

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ドゥテルテ大統領は、彼が22年間にわたって市長を務めたダバオ市において麻薬撲滅作戦を全国に先んじて推進していた。

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの2009年の報告書によれば、ダバオ市では、バランガイの首長と警察が同じようなリストを作成。これを基にして、数百人もの麻薬密売の容疑者、軽犯罪者、ストリートチルドレンが暗殺部隊によって殺害されたという。ドゥテルテ大統領は、これらの殺害のいずれについても関与を否定している。

乱用されやすいシステム

当局者は、容疑者リストは恣意的な殺害のためのリストではないと話している。

麻薬戦争による殺人のうち、その4分の1以上が発生したマニラ首都圏を地域を担当する警察広報官であるキンバリー・モリタス氏は、同地域における1万1000名の容疑者リストは、「情報機関により繰り返し検証が行われている」と語る。

人権擁護団体や一部の当局者からは、このプロセスは乱用されやすいという批判が出ている。

フィリピン人権委員会のカレン・ゴメスダンピット委員は、リストには「密売人どころか、麻薬常用者ですらない」人の名前まで含まれていると指摘。「誰かに恨みを抱いていて銃を持っている人に、相手を殺しに行くことを促すような環境だ」と語る。

警察はロイターの取材に対し、容疑者リストの機密は保持されていると話している。だが、警察が麻薬関連容疑者の家を訪問して素行を改めるよう促す、いわゆる「訪問と説得」作戦が行われている以上、リストに掲載されていることは世間に知られてしまう。

バランガイの会合において麻薬密売人・常用者に警察への「自首」を促すこともあり、ここでもやはり情報は公開されてしまう。彼らの名前はリストに追加されるのだ。

これは大量検挙のプロセスと似ている。いわゆる「自首者」は警察による尋問を受け、取引のある密売人や仲間の常用者について聞かれる。ここで得られた情報は、他の麻薬関連容疑者を特定するために活用できる。自首者の名前はその後全国規模のデータベースに追加されるので、他のバランガイに転居しても監視される可能性がある。

元バランガイのキャプテンだったゲバラ氏は、輪タク運転手セレスティーノさんの殺害を回避しようと努めたという。「彼は容疑者リストに載っていたから、危険な立場にあった」と彼は言う。

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