フィリピン麻薬戦争、「殺害リスト」の大問題 容疑者リストは殺害のためのリストなのか

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この麻薬撲滅作戦の旗を振っているのはドゥテルテ大統領自身である。先月30日、彼はまるで自分をヒトラーになぞらえるかのように、「(フィリピン国内の麻薬中毒者300万人を)抹殺できたら幸せだろう」と述べた。だがこの作戦の効率は、国内のバランガイ、つまり地区や村における最底辺の地元職員らにかかっている。

「彼らはこの戦いの最前線にいる」とデラロサ長官はロイターに語った。「彼らは、自分のバランガイにいる麻薬常用者や密売人を特定できる。全員の顔を知っている」

バイクに乗った暗殺者

地元警察や、住民、バランガイ職員へのインタビューを通じて、この麻薬撲滅という「聖戦」の仕組みが明らかになった。高い支持率を誇るドゥテルテ大統領は、世界的な非難に直面しつつも、この作戦を来年6月まで続けると公約している。

警察によれば、容疑者リストの作成にあたっては、「キャプテン」と呼ばれるバランガイの首長が役に立っているという。

マリカー・アシロ・ビベロ氏は、マニラのバランガイの1つ、人口約14万5000人のピナグブハタンのキャプテンを務めており、ドゥテルテ大統領が率いる麻薬撲滅作戦の熱心な支持者だ。

「麻薬戦争は正しい」と彼女は言う。「犯罪は減っているし、更生したいと思っている人が特定される」

その前の晩、オートバイに乗った暗殺者が、同バランガイの容疑者リストで「密売人」と指定されている男性2人を殺害した、とビベロ氏は言う。彼女は、犠牲者の家族には同情するが、2人の死については責任を感じていないという。

このリストに人々の名を掲載する目的は、「彼らを殺害する、あるいは警察又は当局に彼らの殺害を依頼すること」ではない、とビベロ氏は言う。「目的は、彼らを導き、彼らの生活をもっとよい方向へと向けることで、殺すことではない」

リストに名前が掲載された人々は、殺される可能性が高くなるのかとの質問に対して、同氏は「そうは思わない」と回答した。

ロイターは、プリントアウトされたピナグブハタン地区の容疑者リストを見たが、そこには323人の麻薬常用者や密売容疑者が記載されていた。「自首」と呼ばれる手続を通じて、自分が麻薬常用者であることを警察に申し出るためにバランガイの事務所にすでに出頭した人々もいたので、そのリストは長大なものになっていた。

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