上昇した実質金利の低位安定化が急務 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く(下)

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4月4日、黒田東彦日本銀行総裁が、就任後初の金融政策決定会合で、「今後2年で2%の消費者物価上昇率を達成する」として「量的・質的緩和」と呼ぶ金融政策を決めた。「異次元の金融緩和」とも称している。しかし、新政策の導入後、債券市場は動揺し、金利の急騰などが見られる。200409年まで、福井俊彦、白川方明の2人の総裁の時代に日本銀行政策委員会審議委員を務めた水野温氏(あつし)・クレディ・スイス証券取締役副会長の評価を聞いた。

――「異次元緩和」の後、金利が急騰するなど債券市場が混乱しています。問題点はどこにあるのでしょうか。

中央銀行が国債を大量に買えば長期金利は下がる、と主張するアナリストは多いが、『量』で長期金利を安定させることは決して簡単ではない。海外の例を見ても、どんなに中央銀行が国債を買っても、財政規律がなかったり、景気回復期待が高まったりすれば、長期金利は上昇する。

日銀の巨額な国債買入れオペレーションにより、国債市場の流動性は低下し、ボラティリティが上昇して、国債市場は不安定化している。10年固定の住宅ローン金利は5月に上昇し、6月はもっと上がることが確実だ。

量的緩和の本来の狙いは、実質長期金利(=名目長期金利-期待インフレ率)を安定させることである。ただ、日本はインフレ率も、インフレ期待も高まっていない。長期金利は名目でも実質でも上昇しており、金融緩和効果を相殺している。

短期金利のガイダンスをなくしたことが問題

今回の日銀の政策の枠組みの一番弱いところは、金融政策のターゲットを「金利」から「マネタリーベース」に変更し、短期金利のガイダンスをなくしてしまったことである。日銀が主張するように、2年でインフレ率が2%になるのならば、そのときの短期金利はゼロではないと予想される。金融市場の思惑に反して長期金利が上昇した背景は、日本銀行が実質ゼロ金利政策を維持する期間である『時間軸』の短縮化を市場が織り込んでしまったことである。

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