あの熱気から1年半、「ブルーボトル」最新事情 次にオープンするのはどこなのか
米国では、サードウェーブコーヒーとクラフトビールが同時期に流行り始めたこともあって、クラフトビールメーカーが自らの設備を使って、コーヒー店のためにコールドブリューを作ることが少なくないという(ビールメーカーにとっては、設備の稼働率が上がる)。が、日本ではそうした例がないため、なかなか抽出先を見つけることができなかった。しかし、ここでも井川氏の人脈経由でうしとらに出会い、うしとら側も喜んで引き受けてくれた。
「ブルーボトルにとって、すべての店舗で同じクオリティの商品を出すことはとても大切。その点、すべてのコールドブリューを1カ所で作れるのはとてもありがたい」(井川氏)。
ちなみにブルーボトルは、米国では小売店などで缶入りのコールドブリューを販売。日本については「110円の商品が並ぶ自販機に、いきなり450円の商品が並ぶのは非現実的だろう」(フリーマン氏)としながら、「私たちの缶入りコーヒーは、味わいはもちろんのこと、時間が経っても冷たいままで、飲んでもらえれば違いはわかるはず。提携先を探している段階にはないが、缶詰め工程を担ってくれるパートナーがいればテストはして見てもいいと思う」。
米国一のベーカリー買収を撤回したわけ
さて、日本上陸以降、1つ「予想外」のことがあったとすれば、米国一との呼び声が高い、サンフランシスコの人気ベーカリー「タルティーン・ベーカリー」買収を撤回したことだろう。日本にも代官山にパンが焼ける設備を備えた店舗を昨春オープンする予定だったが中止。その後、昨年12月に買収撤回を発表した。
「互いのビジネスについてより深く学んでいく中で、ベーカリービジネスが非常に複雑で、マージンもコストもカフェとはかなり異なることを学んだ。深く知れば知るほど、2つの異なる、複雑なビジネスを統合するのではなく、別々にやったほうがいいと私たちも、タルティーンも考えるようになっていた」(フリーマン氏)。今後は、ベーカリーなど他業種を買収する考えはないという。
こうした例1つとっても、ブルーボトルは今どきの米国企業と違って、事業の拡大や多角化に対して積極的に見えないかもしれない。「出店目標は定めない」「気に入った場所に出店する」「店の内装はギリギリまでこだわる」という展開の仕方も、海外出店までしている外食企業らしからぬノンビリぶりである。
それでも、米国内外で着実に店舗を増やしているのは、単に質の高いコーヒーを提供しているだけでなく、「コーヒーを飲む体験」を特別にしたいという姿勢に共感するファンがつき始めているからだ。ブームに乗って一気に事業を膨らますことは簡単かもしれないが、あえて遠回りをしてでも息の長いビジネスを作り上げようとしている最大の理由は、フリーマン氏自身が、本当にコーヒービジネスが好きだからだろう。
「好き」だけで突き進めるほど外食ビジネスは容易ではない。だが、ブルーボトルがフリーマン氏の希望どおり、それぞれの地域に根付いていけば、スピード感や収益向上ばかりが求められた外食産業に一石を投じることになるかもしれない。
(撮影:今井 康一)
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