理知的な解答+自由な発想=?
ESでは、提示された問題に素直に取り組むことが、まずは求められる。けれども、それだけでは不十分だ。ここではむしろ、ケースを相対化し、一旦外側にでて、問題の所在を一から考え直すような思考が期待されているのではないだろうか。
優れた学生を採用したい、その願いが多くの企業に共通する一方で、ESの利用目的はまちまちだ。だが、そんな手続きを踏まえた答えを書いてこそ、応募者を選別する手段として、個性を見出すための資料としてのESの意味はあるのかもしれない。
原因の特定から始めるという、常識的で理知的な解答を第1段階とする。その解答を一旦保留にして、たとえば宇宙人が襲来したのかもしれないと、自由な発想を認めてみることが第2段階になる。
個性的な企業ともなると、この2段階目の問題を最初から提示してくれていたりする。そんなESの話も昔聞いた。ただ、それでも当然好き勝手に発想するだけでは不十分で、最後には、また当初の問題に戻って考え直し、それに対して答えを出さなければならない。これが、第3段階(最初にまた戻る)だ。
そこで行き詰まったら第2段階へ戻ればいい。柔軟な発想の第2段階と、一周回ってそれを現実的な問題に応用する第3段階を自由に行き来できるような人材ならば、きっと優秀だろう。
「新製品を考えよ」とESで問う企業は、同じ問いを、自社の社員にも課しているのではないだろうか。とすると、採用において高く評価される解答の質は、社員らの解答の質にもある程度対応するはずだ。
応募者、そして社員に求められているのは、月並みな答えではなく、問題そのものの相対化ではないだろうか。優れた発想力とはそういうもののように思う。自戒も込めて。
【初出:2013.4.20「週刊東洋経済(クルマは日本を救えるか?)」】
(担当者通信欄)
就職活動の長期化、時期の後ろ倒し、と相変わらず話題に事欠かない大学生の新卒就職問題。昨年までよりも少しムードが明るくなったとはいえ、劇的に状況が好転するかというとそうでもなく、就活生一人ひとりが、自身の納得できる形で就職活動を終えられるかどうかは、どんな環境下であっても、なかなか事前にはわかりません。そんな不安だらけの就職活動ですが、ES一つをとっても、その設問への取り組みの中に新たな発見や訓練の機会があるかもしれません。そして、就職してから随分時間が経っているという人にとっても、こういった問題を今あらためて解いてみることが、日々の業務を見直す契機となったりするのかもしれません。
さて、水越康介先生の「理論+リアルのマーケティング」、最新記事は2013年5月20日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、沸騰!エアライン&ホテル)」に掲載です!
【「電王戦」から見えた、人だからこその創造性】
プロ棋士対コンピュータ将棋ソフトの団体戦が話題になりました。人類対コンピュータ、異種格闘技さながらの戦いを、「機械と人間の分業」という理解を超え、商業論の視点から振り返る。
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