DBといえばかつて、高速専用線をドイツ国内に次々と建設し、営業最高時速300キロで走るためのインフラや車両の開発を積極的に行ってきた。ところが「ICE4」の営業最高時速は230キロにとどまる。その大きな理由は、「300キロ」と比べ「230キロ」なら、高速で走るための車両開発、軌道や架線などの地上インフラや信号システムなどの整備に向ける投資額をコンパクトに抑えることができる。
近年の欧州各国政府は緊縮財政に舵を切っているほか、二酸化炭素(CO2)の排出量削減をはじめとする地球温暖化防止にも努めなければならない。さらに、運賃の面で見ると、格安航空(LCC)がEU各国のあらゆる路線を飛ぶ今、鉄道が長距離輸送の手段として地位を維持するためには「利用者がリーズナブルと感じてくれる運賃の適正化」を図らなければならない。「鉄道より飛行機の方が速い」と感じる旅行者はLCCに乗れば良いし、一方で「ドアtoドアの移動には列車が便利」と思う人は「1日数本しかない高価な超特急」よりも「毎時間出発する中速列車で安く行けるほうがうれしい」と考えるだろう。
おおむね160〜230キロの「中速」であれば、巨額な資金をかけて高速専用線を作るのではなく、既存のインフラに必要な補強をするだけで十分走らすことができる。欧州では、高速線も在来線も同じ軌間(1435ミリ=日本の新幹線と同じ)なので、高速車両が在来線に入り込むことができるが、ハイスペックな車両が田舎を100キロちょっとで走っている「ムダ」も起こっている。今後、全体のバランスを考えたとき、「ICE4」をはじめとする「中速列車」が主力車両として地位を拡大するのは当然の流れと見るべきだ。
日本メーカーが欧州市場に割って入れるか?
「イノトランス」の会場には少なからず日本の業界関係者の姿も見かけた。日本メーカーによる欧州進出の動きといえば、日立製作所が英国に車両工場を開いたほか、前述した「フレッチェロッサ1000」を生産するアンサルドブレダを買収するなど、「2年前とは全く違った状況」を作り出している。
「フレッチェロッサ1000」はイタリア国鉄(FS)からアンサルドブレダが受注した50編成が来年中にはすべて納品されることが決まっているが、そのあとの生産ラインでは当初、日立が英国工場で作る予定だった「AT-300」をイタリア拠点で生産することが決まっている。
この「AT-300」の営業最高時速は225キロと、上述の定義からいえば「中速列車」の部類に入る。日立は先に英国で行われたEU脱退の可否を問う投票に際し、積極的に「残留」を支持していたが、それは「英国で作った車両をEU諸国に関税なしで販売するため」という理由があったと考えられる。
あいにく英国はEUからの離脱が決まったが、その一方で同社の輸出向け主力車両となって行く「AT-300」がEU圏のイタリアで生産される意義は大きい。日立イタリア拠点では今後、怪物車両「フレッチェロッサ1000」を作り上げた職人たちが「AT-300」を手がけることになる。「中速列車」がトレンドとなる欧州市場では今後「AT-300」のスペックで十分に参入できる余地が大きく広がって行くだろう。「日本由来、EU生まれ」の車両が欧州大陸を走り回る日々を夢見たいものだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら