「2倍」と「2%」の間のかくも大きな隔たり
日本銀行が金融緩和の目的として掲げる消費者物価は、フロー価格である。これについて、「2%」という目標が設定されている。
「マネタリーベースを2倍に増やす」というのは、日銀の政策手段だ。これと物価目標の間は、「期待」というきわめて曖昧なものでしか説明されていない。この間には、きわめて大きな隔たりがある。この点はもっと明確にされなければならない。
では、「2%目標」はどのように達成できるか?可能性としては、いくつかのルートがある。
第一に、円安で輸入物価が上昇すれば、やがては消費者物価に反映する。過去のデータを見ると、輸入物価上昇率の20%ポイントの変化に対して、消費者物価上昇率の1%ポイントの変化がほぼ対応している。したがって、円安で輸入物価が40%上昇すれば、消費者物価は2%上昇するだろう。
なお、円安による物価上昇は、現に生じている。2月の消費者物価指数(総合指数)は対前年比0.7%の下落だったが、ガソリン価格は8.1%の上昇となった。今後は電気料金が値上がりすることになる。
第二は、原油価格の高騰だ。08年の総合指数の対前年比は1.4%となった(生鮮食品を除く総合では、1.5%)が、これは原油価格の高騰によるものだ。実は、1998年以降の日本で、年間ベースの消費者物価指数の対前年比が1%を超えたのは、このときだけである。
しかし、これらのどちらも意味がない。賃金が上がらずに物価だけが上がっても、暮らしは苦しくなるばかりだからだ。これは増税されて税収を海外に持っていかれるのと同じことである。消費税増税を批判する人が、輸入物価高騰を批判しないとしたら、まったくおかしなことだ。
したがって、物価上昇は、賃金上昇を伴うものでなければならない。そこで、以下では、賃金上昇を伴う物価上昇だけを考えることにしよう。
もう一度確認しておくと、賃金はフローの価格なので、期待では上がらない。それが今年の春闘で分かったことだ。では、どうしたら賃金が上がるか?
考えられるのは、「なんらかの理由で企業利益が増え、それが賃金を増加させる」というルートだ。ただし、利益増が賃金上昇を伴うかどうかは、利益を増加させる原因による。
円安が進めば、海外生産からの利益が増えることを前回の連載で述べた。しかし、この場合には、国内賃金には関係ない。
株価が上がっても、企業の経常利益は増える。現在の日本の会計基準では、企業が保有する有価証券の一部(売買目的のものや持ち合い株など)は、評価益を経常利益に参入できる。しかし、これは、帳簿上の利益増にすぎない。これで利益が増えたからといって、賃上げする企業はないだろう。
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