カープ劇的優勝を支えた「老スカウト」の眼力 71歳の裏方は「将来の活躍」をこう見抜く

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他球団のスカウトが目をつける前から専修大に通い、球団に猛プッシュして、当時の「逆指名制度」で入団までこぎ着けた。ドラフト会議当日、苑田スカウトは専修大学の目の前で待機し、黒田が指名された直後に大学に入ってあいさつ。わずか1分で仮契約を成立させたという。

「黒田はお父さんが元プロ野球選手(一博さん/元南海)だけど、お母さん(靖子さん)も体育教師をしていて、肝っ玉の据わった人でした。新人選手の入団発表の日、カープでは午前中に入団発表をして、昼はみんなで昼食会をして、宮島観光をしたりするんです。普通は息子の晴れ姿を見るために、休みを取って来ますよね。でも、黒田のお母さんは当日に広島に来て入団会見に30分だけ同席して、その後『授業があるので』と言って帰ってしまった。自分の仕事に対するプライドを感じましたね」

母親を見せてもらえれば、いい選手かどうかわかる

苑田スカウトは今でも口癖のように「母親を見せてもらえれば、いい選手かどうかわかります」と言う。母親が「おてんば娘」のほうが、選手として成功していることが多いそうだ。

一方の新井は、半ば「縁故入団」と言ってもいい経緯だった。駒澤大時代の新井の印象を苑田スカウトに訊くと、ポツリと「体のキレがなくてね……。はっきり言って、ドラフトにかかるレベルではなかった」と明かした。

「新井が4年生の時に駒大のグラウンドに行って、太田(誠/当時)監督から『新井はどう?』って聞かれたんです。『無理でしょう』と答えてしまったんだけど、太田監督は『技術は三流だけど、体は超一流だ』って言うんですよ。それと、当時カープで駒大出身の大下剛史がヘッドコーチをしていた縁もあった。太田さんが彼にも連絡していたんじゃないかな。大下がいなかったら、どうなっていたかわかりませんよ」

新井はドラフト6位でカープに入団。プロ18年目の今季は通算2000本安打を達成し、39歳にして打点王争いを演じている。

「僕は『努力』という言葉は嫌いなんです。プロなんだから、そんなのやって当たり前。でも、新井には言いたい。『ようやったな』と。彼の場合はスカウトの力なんかじゃない。本人の努力と『超一流の体』があったから。以前にカープでコーチをしていた松原誠さんから聞いたことがあるんだけど、キャンプの休みの前日に朝まで飲んで、それから『バットを振るか』と聞いたら『ハイ!』と言って、朝から昼までバットを振ったらしいんだよね。ちょっとありえない体ですよ(笑)」

無事是名馬(ぶじこれめいば)を地で行く新井だが、苑田スカウトは「こんな選手は100万人に1人」「スカウトの力じゃない」と強調した。

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