8年前のような「大暴落」を否定できない理由 緩和傾向だった金融政策の限界が見えてきた

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このような惨事を鎮めるために、政府・中央銀行はあらゆる手を尽くした。新たな金融政策を導入したことは、その好例である。市場からの資産買い入れにより、資金供給を増やし、何とか景気・経済を立て直そうとした。幸い、金融危機はひとまず収まり、世界経済は再び拡大に向かい始めたように見えた。

しかし、その後も欧州債務危機や中国経済の不透明感など、市場心理は好転せず、日米欧の中銀は金融緩和策を解除できずにいた。米国は先んじて、半ば強引に量的緩和策を終了させ、昨年末にようやく利上げを実施した。しかし、日欧は相変わらず緩和策を継続しているものの、デフレ脱却に失敗しただけでなく、通貨高になるなど、政策導入時の思惑とは真逆のことが起きるという失態ぶりである。

そもそも、量的緩和やマイナス金利は、デフレを誘発する政策である。需要のないところに利下げ、マイナス金利、資産買い入れ、通貨安誘導を行っても、まったく効き目がない。このことをまだわかっていないのが日銀である。来週には「総括的検証」の中で、彼らの現在の考えや今後の政策の方向性についての説明がなされるわけだが、直近の報道によると、マイナス金利の深掘りが今回の政策になるという。このように、これまでの延長線上の政策であれば、市場の方向性は決まったようなものである。

これ以上の金利低下がなければ上昇しかない

しかし、先のドラギECB総裁の理事会後の受け答えを見る限り、ECBはこれまでの政策の限界をすでに理解し始めている可能性があるのではないかと感じた。資産買い入れ額の増額や期間の延長、マイナス金利の導入などの政策を導入したが、政策が意図した状況にはほど遠い。このように考えると、これまでの緩和方向だった政策が、ある日突然巻き戻される可能性もあるのではないかと考えられる。それはむしろ、彼らが判断するのではなく、市場から金利上昇により催促されるのではないかと考えている。

つまり、国債利回りが上昇し、歯止めが効かなくなるほどの上昇になれば、これまでの世界的低金利を背景とした国債への過剰な投資や、その代替として流行した米国の高配当銘柄への投資などが、完全に巻き戻されることになる。そうなれば、世界の投資マネーが逆流し、一時的に大きなショックとなって株価や国債が大きな調整を強いられることになる。

最近の長期金利の上昇などが、これまでの緩和策の限界を示唆しているとすれば、FRBやECB、日銀でも止めることはできないだろう。市場は中銀の政策に安心しきって買い上げてきた。しかし、これ以上の金利低下がなければ、今度は上昇するしかない。そのショックはきわめて大きなものになるのだろう。現在の市場動向は、そのときが近づいていることを示唆しているように感じる。

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