伊東:さっきのコロッケを盗んだ老人は、経済状況が改善すれば、万引をしないと思います。しかし、虚栄心のある人はおカネがあってもまた繰り返してしまうのでしょう。
地域の人を「犯罪者」にしないために
常見:一度、万引の現場をみたことがあるんです。中学生くらいだったかな、スーパーにいたら大きな音が聞こえて、ジャージーを着た小太りの男の子を、大人がすごい剣幕で追いかけていました。男の子はすぐにつかまって、ぶるぶる小刻みに震えていました。あの光景がすごく強烈で……。万引ってしちゃいけないものなんだと強烈に感じた出来事です。
伊東:それは衝撃的だったでしょう。今のお話のように、万引って、やるほうと捕まえるほうに温度差があるんですよ。やるほうは、ちょっとしたつもりでやっているけれど、捕まえるほうは相手が犯罪者だから、すごい剣幕です。
不思議なんですが、日本は万引に対して甘い社会であると思います。「おれ、万引したことあるんだ」って打ち明け話ができますよね。
常見:ああ、確かに、飲み会の席で武勇伝的に聞くことがあります。
伊東:置き引きや、ひったくりをした過去を打ち明けることはほとんどありません。同じ窃盗なのに、万引は軽いものとして扱われています。
ただ、万引の被害額を総計すると、4000億円以上もあります。
とある調査会社によると日本全国の年間万引被害総額は1兆0407億円に上るとされています。その被害総額からすれば特殊詐欺の被害額を大きく上回っており、決して軽い犯罪とはいえません。結局、そのツケは、普通におカネを出している私たち消費者が負担しているのです。店舗の側も万引をさせない対策をもっと取るべきだと思っています。
常見:環境を整えることで、万引を減らすことはできるのでしょうか?
伊東:十分可能だと思います。万引犯は、ほとんど決まった場所で犯行に至ります。だいたい同じような場所で、カバンに入れるのです。
常見:では、「ステーキが欲しいけど、ステーキの棚は万引しづらいから、ハムにしておこう」のように、盗りたいものを盗るのではなく、盗りやすいものを盗ることがあるのですか?
伊東:欲しい商品の場所と、カバンに入れる場所は違います。一度商品を手にして、死角に入り、そこで商品をカバンに入れるのです。だから、盗るものは違えど、カバンに入れる場所はだいたい一緒です。
常見:万引したことないからわからなかった……。棚からすぐにカバンに入れるわけじゃないんですね。
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