交渉ベタな人は丸くおさめる方法を知らない 「相手に勝たない」からこそ、うまくいく

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それだけではありません。相手が本当に喜んでくれたら、長年契約を継続してくれるだけではなく、自分のまわりにいる同業者にも「あそこの会社のサービスはいいよ」と口コミで広めてくれて、広告宣伝をしないのにお客様がどんどん増えていくことになるのです。

ココが交渉の急所です

「丸くおさめる交渉」「相手が喜ぶ交渉」は、「利他(りた)の交渉」ということができます。「利他」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、これは「他人に利益となるように図ること」「自分のことよりも他人の幸福を願うこと」という意味です。もともとは仏教用語で、人々に功徳・利益(りやく)を施して救済することから来ています。つまり利他の交渉とは、「相手のことも思いやり、相手にとっての利益も考えて交渉する」ということになります。

そして、丸くおさめる交渉で大切なのは相手が喜ぶだけではなく、自分が得する交渉であるということです。それは、いくら利他の心で相手に良いことをしたとしても、自分が得をしなければいつまでも長続きしないからです。会社が営業を継続していくためにはお客様から感謝されるだけでなく、毎年経済的な利益を自社にも積み重ねていかなければなりません。

もちろん、自分に得がない交渉をしたのでは、交渉相手が喜んだとしてもあなたの上司が喜ぶわけがなく、社内で「お前は弱い人の手助けをしてエラいぞ!」などとほめてくれるわけもありません。

もっとも、本当に相手の利益のことを考えてあげられるようになると、相手もあなたの利益を考えてくれるようになるので、結局あなたも得することになります。相手も自分だけが得をしてはいけないと考える性質があることを「返報性の法則」と言います。仏教の世界ではこのことを「自利利他」と呼ぶそうです。本当に利他の心をもって相手を思いやると、結局得は自分に返ってくるという意味です。「情けは人のためならず」と言いかえることができますね。

このように「相手が喜ぶこと」と「自分が得すること」の2つが両立する場所を探すことが、丸くおさめる交渉の急所になります。

『本当に賢い人の丸くおさめる交渉術』(すばる舎)。画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「交渉術」の本の中には、「相手の正面に座ったほうがいい」「資料はテーブルのここに置くのがいい」「交渉場所はどこどこがいい」といったケース別のテクニックを教えようとするものがあります。

しかし、このような細かい交渉テクニックは、それとまったく同じ状況にならなければ使えませんし、そんなことをいざ実際の交渉の場で思い出して実践することはほとんど不可能ではないでしょうか。読み物としてはおもしろいのですが、本当に日々の交渉に生かせるのか疑問です。交渉上手の人にテクニックだけに頼る人はいません。それよりむしろ交渉を進めるにあたっての考え方や基準を持っています。何より交渉そのものよりも事前準備を大事にしているのです。
 

三谷 淳 未来創造弁護士法人 代表弁護士

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みたに じゅん / Jun Mitani

慶應義塾大学法学部法律学科出身。2000年弁護士登録後は横浜の大手法律事務所に勤め、数多くの裁判を手がける。このころ旧日本軍の爆雷国家賠償訴訟に勝訴し、数々のマスコミに取り上げられる。しかし、2006年に独立し三谷総合法律事務所(現・未来創造弁護士法人)を設立すると、裁判はたとえ勝訴しても、時間がかかり、依頼者に強いストレスをかけ、結果的におカネも回収できないケースが多いことに気づき、徹底的に交渉術や紛争予防法を研究する。1日5件、週に20件、年間1000件の交渉を実践し、「日本一裁判しない弁護士」と呼ばれるようになる。紛争の早期円満解決や予防は、トラブルを抱えるクライアントだけでなく、企業経営者からも絶大な支持を受け、現在では「経営を伸ばす顧問弁護士」として地域、業種を超えて全国各地の上場企業から社員数名の企業まで100社近くの顧問弁護士を務める。

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