深刻な台風被害でJR北海道経営はどうなる? 復旧優先か、それとも廃線論議が加速するか

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根室本線の不通区間にある新得駅の構内。特急「スーパーおおぞら」「スーパーとかち」が停車する(写真:ワン太郎 / PIXTA)

この過酷な冬季の環境というのは、今回の台風の被災にも関係している。石北本線でも、根室本線でも「どうして、あそこまで路盤が流出してしまうのか?護岸工事はしていなかったのか?」という疑問が挙がってもおかしくない。確かに、本州以南の鉄道とはそうしたインフラに差があるのは事実だ。

だが、護岸工事や盛り土や切り取りの工事に関して、JR北海道は「手抜き」をしていたわけではない。また「経営危機のために予算がなく」できなかったわけでもない。

この地域は厳冬期には基本的に零下10度以下になる。そのために路盤も、盛り土も何もかもが凍結し膨張する。そのために、法面(のりめん=切り取り部分などの斜面のこと)をコンクリで固めることが難しいのだ。固めても、凍結と溶解を繰り返すことで膨張と収縮が起こってボロボロになるからだ。

また、コンクリで完璧に固められない一方で、土の路盤や盛り土は凍結と溶解を繰り返すことで軟弱化する。これも自然環境ゆえの宿命である。そうした過酷な条件ではあるが、幸いにも、十勝のこの地域は台風等の大雨の被害には遭わずに済んできた。だが、今回は余りにも多くの雨量に直撃されて、脆くもインフラが崩壊してしまった。

「持続可能性」議論の前に復旧を

しかも、石北本線の工事日程がそう組まれているように、10月中旬までにできれば完工しておかないといけない。冬将軍がやって来て地盤が凍結を始めると、その時期に施工した区間は、工事箇所に凍結した氷を含むために構造が脆くなるからだ。

一言で言えば、北海道の厳しい冬には鉄道は必要不可欠であるが、厳しい冬のために十分な護岸工事や路盤の補強は難しいため今回の被害を招いた。その一方で今回は何としても凍る季節の前に復旧工事をしないといけないという、苦しい事態になっている。

これは、一鉄道事業者のマターを越えた事態だ。まずは、道、そして国が緊急で資金、資材、技術、労働力を確保すべきだ。少なくとも、上落合信号場と芽室の区間(これに加えて、石勝線のトマムと上落合信号場の間も)に関して、復旧工事の越年という選択肢はあってはならないと考える。

また、7月に問題提起がされた「持続可能性論議」に関しては、まずこの区間の復旧工事のメドをつけてから後に行うという優先順位にすべきではないだろうか?

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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