配偶者控除見直しで焦点となる増減税の境目 税収中立となる控除税額の金額を独自試算

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わが国にとって、不幸中の幸いなのは、所得税制において累進税率をきつくしなくても所得格差是正を強化する方策が残っていることである。それが、所得控除を税額控除に改めることである。所得効果と税額控除の効果の違いの説明は、東洋経済オンラインの本連載の拙稿「所得税改革は、『配偶者控除』だけではない 『103万円論議』の先にある大切なこと」に譲るが、所得控除で税負担を軽減すると、同じ金額でも高所得者にはより多く、低所得者にはわずかしか税負担軽減効果が及ばず、所得格差が是正できない。

これに対して、税額控除で税負担を軽減すると、皆に同じ金額の税負担軽減効果が及び、高所得者に(税率を上げることなく)より多く税負担を課すことができて、所得格差が是正できる。

全体では税収中立だが、より低所得者には減税、より高所得者には増税という形で、わが国の所得税における所得再分配機能を回復させる、という政策目的が実現できる。この観点から、従来の所得控除を税額控除に改めることで、働く女性により多く恩恵をもたらしつつ、所得格差是正も図ることが考えられる。

税制面で働く女性により多く恩恵をもたらす方法は、配偶者控除の形を、女性が働いて多く稼いでもその税制の恩恵が残るように改めればよい。今の配偶者控除は、141万円以上稼ぐ既婚女性には、1円も税負担軽減の恩恵が及ばないから、これを改めるのがポイントだ。ただ、現行制度で配偶者控除として与えられている専業主婦(夫)への恩恵をなくせば、専業主婦世帯への増税となりかねない。専業主婦は、高所得の世帯にもいるが、低所得の世帯にもおり、専業主婦を狙い撃ちするような増税は、実現可能性を低下させる。

税額控除を新設することのメリット

その点、現行制度で所得控除の形で与えられている配偶者控除を、働いているかいないかにかかわらず夫婦であることを条件として、税額控除に形を変えて税制の恩恵を与えれば、低所得の専業主婦世帯でも引き続き恩恵を受け続けられて増税にはならないようにしつつ、現行制度では配偶者控除の形では恩恵が受けられなかった共稼ぎ世帯には、新設する税額控除が新たに加わって減税となるようにできる。

配偶者控除の見直しを実現させるために、どうしても乗り越えなければならないのが、増減税の境目の議論である。女性活躍や所得格差是正のためなら、短期的な利害得失だけで議論すべきではないものの、所得税制を改めるとなると、個人的な利害得失がどうしても出てしまう。そこで、ここでは、どのような控除の見直しを行うとどのような増減税が個人に及ぶか、読者の方々に目安を提示したい。

まず、基本的な効果について。直面する所得税率が5%の人は、現行の配偶者控除がなくなると1.9万円(38万円×0.05)の増税となるが、1.9万円の税額控除を新設すると、増減税がゼロとなる。所得税率が10%の人は、現行の配偶者控除がなくなると3.8万円(38万円×0.1)の増税となるが、3.8万円の税額控除を新設すると、増減税がゼロとなる。

ちなみに、わが国の納税者の約60%は、直面する所得税率が5%で課税所得が195万円以下の人であり、給与所得だけで稼ぐ個人だと税引き前年収500万円前後である。注意したいのは、所得税は個人単位での課税なので、ここでの年収はあくまでも個人の年収であり、世帯の年収ではない。

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