配偶者控除見直しで焦点となる増減税の境目 税収中立となる控除税額の金額を独自試算

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これを敷衍すれば、現行の配偶者控除がなくなり3.8万円の税額控除を新設すると、所得税率が5%の人(納税者の約60%)は1.9万円の減税となり、直面している所得税率が10%の人(納税者の20%強)は増減税ゼロ、所得税率が20%の人(納税者の10%強)は3.8万円の増税となる。累進税率であることを踏まえると、より低所得の人に配偶者控除を改めて(働き方に依存しない形で)夫婦に対して3.8万円の税額控除を与えるとすれば、多くの納税者に減税の恩恵が及ぶと予想できる。

では、配偶者控除を3.8万円の税額控除に変えることで、税収中立は実現できるだろうか。筆者は、国税庁等から公刊されている2013年所得のデータを基に分析を試みた。配偶者控除を改め、配偶者の所得の多寡にかかわらず、夫婦である(配偶者がいることを税務署に届け出る)ことだけで税額控除が得られるという控除の与え方を分析するには、どの所得階層で配偶者がいる納税者が何人いるかを知らなければならない。

現在得られる公式統計からは、配偶者控除や配偶者特別控除を適用されている人数はわかるが、これだと、141万円以下しか稼いでいない配偶者の数しかわからない。共稼ぎ夫婦だと、納税者としては互いに独立した納税者となって、夫婦関係は考慮されていないのが現状だ。共稼ぎをしている夫婦の所得分布のデータは、意外にも容易に得られない。

そこで、筆者は日本家計パネル調査(JHPS)の個票データから、所得階層別の有配偶者比率を求めて、配偶者控除の見直しによる税収の変化を調べた。

税額控除額3万円なら税収は中立になる試算

筆者の推計によると、配偶者控除(と配偶者特別控除)を廃止して(夫婦の働き方にかかわらず)1人3.8万円の税額控除を夫婦に対して新設する(これと合わせて基礎控除も同様に3.8万円の税額控除に改正する)ことだと、6000億円を超える所得税の減収となる。

これだと、確かに低所得者に恩恵が及ぶ一方で、税収中立は実現できない。税額控除の額を変えることで、税収中立を目指すとすると、現行の配偶者控除と配偶者特別控除を廃止して税額控除を新設するとしたら(これを合わせて基礎控除も同様に改正)、税額控除の額を3万円前後にすると税収中立になるとの推計結果が得られた。

この案だと、納税者の約7割が減税となる。また、単身世帯では個人の課税所得で180万円前後(給与収入のみまたは年金収入のみだと課税前個人年収が400万円弱)、専業主婦世帯では個人の課税所得で160万円前後(給与収入のみだと課税前個人年収が420万円前後)、共稼ぎ世帯だと個人の課税所得で330万円前後(給与収入のみだと課税前個人年収が600万円弱)が境目となり、その所得以下の個人は減税、それ以上は増税となるようである(ここでの課税所得は、現行制度下で算出したもの)。

配偶者控除の話ばかりしたが、これと合わせて、納税者個人に与えられている基礎控除(38万円の所得控除)やその他の人的控除も、合わせて税額控除化することにしないと、個人に対する控除の与え方が不統一となる。この点も、所得再分配機能を回復させる意味で改革点である。

具体策の検討は、もちろんこれからである。控除の対象者など、克服すべき課題もある。控除の額次第で、増減税の境目をどこになるかが変わってくる。政府与党での検討は、こうした具体的な金額を交えた議論に踏み込んでいくことになろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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