翔太さんに話を聞いてみると、「南武線の電車がインドネシアに行ったことどころか、そもそも日本の電車が外国の街へ輸出されて走っていることなども、スマホ発見の朗報を受け取るまで全く知らなかった」という。
日本の中古鉄道車両の輸出をめぐっては、「ブエノスアイレスから東京メトロ丸の内線の古い車両が里帰り」というニュースが最近流れたほか、ミャンマーにかなりの数の気動車が渡っている。意外と多くの国で日本の車両が第二、第三の人生を送っている。その中でも、日本の車両輸出先で最も規模が大きいのがKCJだ。
同社はこれまでに1000両以上の車両を有償・無償で日本から受け取っており、2015年末現在の統計では788両を保有している。JRから渡った205系のほか、東急の8000/8500系、東京メトロの05系や6000系、7000系などが使われており、日々の運用は日本からの譲渡車両でほぼ100%まかなわれている。インドネシアの国産車両が4編成あるが、不具合が多いのが難点で短距離の支線を走っているにとどまる。
移植された日本流のメンテナンスノウハウ
ところが、これだけ大量に日本からの譲渡車両を運用しているにもかかわらず、数年前までKCJの「鉄道の管理に対する意識」は高いとは言えなかった。2015年3月にJR東日本から派遣された、KCJのゼネラルマネージャーに就任した前田健吾さんは「私が日本からKCJの様子を見ていた当時、壊れてから対応する事後保全の文化しかなかったんです。しかも、適切な部品もない。どこか壊れると、部品取り用の車両からあれこれ持ってきて直す、ということが続いていました」
そこで、現場の問題点を片っ端から見つけ出し、スマホで撮影し列挙。現地の経営幹部に「問題点の見える化」を繰り返し示したという。「経営陣はこれはまずい、と感じたのでしょう。すぐに改善してほしい、と訴えて来ました」。
前田さんが即効性のある手段として着手したのが、「デイリーメンテナンス(仕業検査)の改善」だった。以前は、ヘルメットもかぶらず、ただ車内のゴミを拾う程度のことしか行っていなかった現地社員に対し、何度もディスカッションの機会を持って日本流のメンテナンスを徹底的に教育。その結果、KCJの社員が自らの手で仕業検査の手順書を作り上げたという。前田さんは「日本のスタンダードと同等の予防保全の方法を自分たちの手で作り上げられた、ということが彼らの大きな自信につながったようだ」と目を細める。
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