普通の女子高生が東大生に「知力」で勝るワケ 東大卒NHKプロデューサー、村松秀氏に聞く

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――現役で理Ⅰに合格します。どんな学生でしたか。

駒場の前期教養課程では文系科目もたくさん履修しました。しかし、自分が本当に何をしたいのか結局決められないまま進振り(現在の進学選択)を迎えました。だったらなるべく進路の幅が広い学科に進学するのがいいんじゃないかと思い、コンピュータ、半導体など多様なことを学べる電気電子工学へ進学しました。

ところが、進学してみると講義の世界が一気に深くなり「電気電子って得意じゃないんだ」って気付きましたね。「気付くの遅すぎでしょ」って感じですけど(笑)。専門の世界というのは、その道を本当に突き詰めたい人が自発的に学ぶ場所だと実感しました。自分は何か一つを深く細く掘り下げて深めることより、世の中とつながりながらより広く物事を考えたいタイプだと思い直し、このまま電気電子系にいるのはまずいと思いました。

自主留年して進振りをやり直したいと思ったのですが、すでに単位を十分に取得していたためそれも叶わず……。なら、どうにか卒業して就職するしかないと考えたときに、自分がずっと大好きだったテレビの世界が単なる夢から具体的な就職先としてにわかに視界に入ってきました。理系で学んだ経験を生かして「ウルトラアイ」のような科学番組を作れるのなら、テレビの道はそれまでの人生を否定せずポジティブにとらえられる選択になると思ったんです。

「伝える」のではなく「伝わる」ことが大事

村松 秀 (むらまつしゅう)/1990年東京大学工学部卒、同年NHK入局以来、「ためしてガッテン」など科学系番組の制作を主に担当。また「すイエんサー」「まざかめTV!」「発掘!お宝ガレリア」等、多数の新番組開発に携わる。現在はコンテンツ開発センターで新規番組開発を担当(撮影:久野美菜子)

――NHKに入局しディレクターやプロデューサーとして活躍します。何を意識して番組を制作していますか。

「エル」ではなく、「ワル」ということですね。情報を「伝える」のではなくメッセージが「伝わる」ことが大事です。伝えることは今や一般の方々でもブログやSNSで簡単にできます。「伝わる」というのは、こちら側のメッセージを視聴者がしっかりと受け取り、そして腑に落ちるということです。ですが、これは極めて難しい。

「伝わる」ためには、説明をわかりやすくすればいいという単純な話ではありません。たとえば、先に述べた「番組側と視聴者が空気を共有すること」を作り出すのも工夫のひとつでしょう。

プロデューサーとして番組を立ち上げた科学(?)エンターテインメント番組「すイエんサー」には、視聴者に「どういうこと?」と思わせるような「違和感」を与える工夫がたくさんあります。タイトルの意味がまったくわからなかったり、火曜日放送なのに「すイ」という言葉が入っていたり。スタジオ収録がなく、MCやゲストはベンチに座り、カメラは固定された小さな一台しか使わない。

「黄身がど真ん中のゆで卵を作るにはどうするか」など、そこまで大事そうではないことをなぜあえて番組で取り上げるのか。視聴者は違和感が気になってだんだん癖になってくる。癖になるってことは番組の空気を共有できているということでもあります。心許した友達との会話のように、空気を共有しているからこそ「伝わる」面白さがあるんです。

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