あの「熱海」に再び観光客が集まっている理由 宿泊客数は2011年を底にV字回復
それが形となって表れたのが、RoCAだ。当初、ここでカフェを始めると言い出したときには、商店街の人たちが一斉に「ここに人が来るわけない」と猛反対。資金的な問題もあった。40坪もある場所でカフェを開くとなると、通常は最低でも1000万円程度の資金が必要になるが、当時に市来氏は自己資金ゼロ。なんとか親戚や銀行から600万円を調達したが、改装に充てられたのは350万円。そこで、什器や家具などはマンションのモデルルームなどからのもらいもので済ませ、多くの作業は自分たちでこなした。だからよく見ると店内のテーブルはなぜか収納家具の扉だったりする。
マルヤの再生には200人が出資
2012年のカフェオープン後も経営的には苦労続きだったが、市来氏は熱海に人を呼ぶべく、次々とイベントを開催。続けているうちに、別荘族と地元の人たちに交流が生まれ、移り住んでくる人たちもちらほら出始めた。開店から1年半後には、前述の「あたみマルシェ」を始めたほか、2015年にはゲストハウスのマルヤを始め、月1回「空き家ツアー」をスタート。2016年には、1959年に建てられて以来、一度も使われたことのなかったビルの2階をリノベーションし、コワーキングスペース「naedoco」を開始した。
この矢継ぎ早ともいえる、新事業は建築やリノベーション、街づくりなどに関心がある人たちに「熱海が変わり始めている」という強い印象を与えた。そのためか、ゲストハウスマルヤの再生ではクラウドファンディングを通じて200人近くが資金を投じ、実際のリノベーションには70人以上が参加した。情報を発信し続けたことで人手が着々と増え、カフェやゲストハウスの経営も軌道に乗り始めた。
立て続けに事業をスタートできたのには、ほかにも要因がある。熱海市の財政事情の好転だ。熱海市では2006年9月に現職の齊藤栄氏がわずか62票という僅差で市長となったが、この時点の熱海市財政はいつ「第2の夕張」になってもおかしくない状況だった。連結財政赤字比率(一般会計収入の標準額に対する、公営事業を含んだ全会計の赤字額の割合を示す)は30%超と、全国ワースト6位だったのである。
齊藤氏は当選後すぐに5年間と期限を切って財政改革を掲げ、市役所の人員整理なども含む人件費カットや公共料金の見直し、緊急性のない大型事業の凍結などコスト削減を断行。結果、熱海市の財政調整基金残高は5年間で17.4億円増加、不良債務残高は逆に約24.1億円減少しており、V字回復を果たしたといえる。
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