「1年前から彼氏がいます。半同棲みたいな感じ。いい人だけど、仕事を辞めないと結婚は考えられないってハッキリ言われています。とにかく借金を返さないと何も考えられない。彼氏に何言われるかわからないけど、ソープで稼ぐしか道はないです。本当にきつい、頭がおかしくなりそうです」
彼女は大城君の言う典型的な“優しい人、まじめな人”である。ヤミ金からは「返済踏み倒したら、実家に取り立てにいく」と言われている。離島で風俗嬢であることがバレると、あっという間に島中にうわさが広がって生きていけない。両親に迷惑をかけることになる。バレることは最も恐ろしいことで、法的措置をしても債務からは逃れられない。どこにも逃げ場はないのだ。
栄町に戻った。深夜1時半。大城君の言うとおり、旅館を掲げるちょんの間の前にバイクが停まる。おばさんたちはこの数時間で売春したおカネを、そのまま回収される。まさに貧困から抜け出しようのない無間地獄だった。
「かわいそうだけど、仕方ないですよね。おばさんたちは50歳、60歳になって、ずっと売春から抜け出せないし、抜け出しようがないんですよ。さっきのピンサロ嬢も借金は返せて、仮に昼の仕事でゼロからやり直しても、たぶんすぐに戻ってきますよ。債務者の女の子が夜を卒業して、昼の世界で幸せにやっているみたいな話は聞いたことない。彼女たちは学歴も手に職もないから、最低賃金の仕事しかなくて、それじゃあ生活できないですからね」
平良さんのような離島出身で一人暮らしする女性は、那覇にネットワークや人脈がないので、風俗か昼間の最低賃金の仕事か、その2択しかない。どちらを選択してもおカネが足りない。彼女が望む“安定した普通の生活”を手に入れるのは、非常に困難なのだ。
借金返済のため観光客からボッタくる
昭和の雰囲気が色濃く残る栄町社交街には、違法風俗だけでなく、無数の寂れたスナックが営業する。スナックのママたちも売春する高齢の売春女性たちと同じく、その日暮らしの貧困層だ。売春女性と同じく、そのほとんどがヤミ金の債務者という。
「だから、ボッタくるんですよ。この辺の店はボッタくりばかり。客を見て高額請求するわけ。たとえば座っただけで、3人で6万円とか。カネがありそうな観光客だったら10万円とか。そうやっておカネを作ってヤミ金に支払う。あと看板も電気もつけないで営業している店があるけど、それはヤミ金の集金をかわすため。居留守を使う。もうみんな今日をどうやって切り抜けよう、それだけ。それが栄町の現状です」
栄町は、貧困という苦界に身を落として何十年も生き延びた高齢女性たちが漂流する最後の"特区"だった。そして貧困が蔓延する場所には弱者を食い物にする貧困ビジネスが蔓延する。
郷愁が漂う街には、日本の中でずば抜けて最悪の最貧困県沖縄の厳しい現実が詰まっていた。
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