かんぽ生命、「順調な減収減益決算」の課題 運用多様化に遅れ、第3分野もまだ途上
もちろんかんぽも手をこまぬいてきたわけではない。前期からの中期3カ年計画では、満期代替取組の徹底や、日本郵便による渉外社員2万人体制の構築支援、研修の強化など、積極的に取り組んでいる。強みの高齢者層に対しては、2015年4月に養老保険、10月には終身保険の加入年齢範囲を拡大。専用のコールセンターを開設したりするなど深掘りに余念がない。
成果も現れてきた。この第1四半期、個人保険の新契約年換算保険料を1441億円と、前年同期の1194億円から20.7%も伸ばしてみせたからだ。「簡易保険100周年記念キャンペーンのイベントや、CMなどの営業推進もあって、社員の営業活動量が増えている」(経営企画部)。保有契約件数も2016年3月末は3232万件、この6月末は3214万件と、減少のペースが緩やかになってきており、ようやく底打ち反転も視野に入ってきた。
だが、成長軌道への転換を確実にするためには、乗り越えるべき大きなハードルがある。日銀のマイナス金利がもたらした、「国債金利が多くの年限でマイナス圏に沈む」という異常事態だ。
実はかんぽは、契約者に約束する利回りである予定利率を1.5%と、これまで他社よりも0.5%高い水準に設定していた。金利低下を受け、他社は2013年4月に予定利率を1.5%から1.0%へと引き下げ、貯蓄性商品を軒並み値上げ。ところが、販売への影響を懸念したかんぽは、利ざや縮小分を、薄利多売に拍車をかけて量でカバーすることでしのいだ経緯がある。
辛抱してきたかんぽも、ついにこの8月の新規契約からは、予定利率を1.0%へと引き下げた。寿命の延びも反映し、高齢者層には保険料が値下げとなるよう配慮したが、若者や中年層では最大1割の値上げとなった。
競合大手と運用力の差が歴然
しかし、マイナス金利がもたらす本当の試練は、まだ先にある。今のような国債利回りが続けば、金融庁は2017年4月には、各社が予定利率を設定するメドとなる「標準利率」といわれる基準金利を、現在の1.0%から0.25%まで大幅に引き下げるとみられる。予定利率が1.0%でもついていればまだしも、標準利率に合わせて予定利率を0.25%にまで下げれば、もう貯蓄性商品としての魅力は失われてしまう。保障性を主力とする他生保からは、商品によっては貯蓄性を販売停止する動きが続いてもおかしくないが、かんぽにその選択肢はない。
実際、本来運用の柱となる国債がこんな状況では、1.0%の運用利回り確保は、容易なことではない。各社はより高い利回りを求め、外国債券や海外クレジット、さらにはインフラといった新領域を含め、運用の多様化・高度化を図ってきた。対してかんぽは、石井雅実社長が「かなり保守的でリスクを取れるバッファがあるのに使えていなかった」と語るとおり、運用の多様化が遅れていたのである。この3月に包括提携を発表した第一生命との連携もテコに、リスク性資産への取り組みや組織整備、人材育成を急ぐが、競合大手へのキャッチアップは一朝一夕にかなうものではない。
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