日本には「国家の物語」が欠落している 財政再建が進まない本当の理由

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昨年末の総選挙も、やはり消費税増税に対する反発が底流にあったと思います。もちろん「マニフェスト違反」「景気が回復してから行うべし」「行政改革が足りない」と増税そのものではなく、「増税をするための必要条件が満たされなかったからだ」というのが、一応の理由でしょう。そうした理由も、それなりに理解できます。

しかし、消費税導入の歴史は、かなり昔から始まっています。現役世代が減少し、人口が高齢化する中、社会保障を支えるためには、付加価値税が必要であることは、1960年代から指摘をされてきました。そして、1979年に大平総理が消費税導入を提唱してから、実に30年以上経っても、現状はなお、お寒い状態です。

大平内閣以降も、その都度その都度「増税の前にやることがある」と批判されてきた結果、事実上、先送りがなされてきたのです。このいきさつを私たちは、どう考えるべきなのか。本当に、単に政治がだらしなくて、国民が望む増税の「条件」が整わなかったからなのか。

愛情からのみ、真の責任と使命が生まれる

いずれにせよ、この先送りにより、先進国32カ国でみれば、日本国民の税と保険料の負担の重さ(国民負担率)は、下から6番目とかなり低い水準となっています(税金だけをみれば、負担はもっと軽い)。では、医療や年金の社会保障が見劣りするのかといえば、そうではありません。社会保障の支出は17番目で、平均よりやや下くらいです。つまり、「中福祉、低負担」なのです。さらに、社会保障以外の予算(たとえば、役人の人件費、道路、教育、農業予算等)は、実に文字通り32カ国の中で最低の水準にあります。

財政再建のためには、もはや社会保障以外の無駄遣いは削る余地は少ないのです。「身を切る覚悟」は、政治的には極めて重要であるものの、基本的には、社会保障を思い切り削るか、増税するしかありません。ところが、前者は「お年寄りいじめ」に、後者は「弱いものいじめ」につながりかねないのです。

事の本質は、「将来の日本を背負う子供たちのために、現在の私たちがどこまで身を削る気持ちがあるのか」ということに尽きます。別の言い方をすれば、国家国民の繁栄ある永続をどこまで強く願うのか、ということに尽きます。「国家」という言葉は、国の「家」と書きます。「家」というものは、「今現在生きている」私たちだけではなく、先祖に敬意を払いながら、子々孫々に思いを致して、初めて成り立ちます。「国の家」も、こうした世代を超える、愛国の熱誠がなければ、成り立たないものなのです。愛情からのみ、真の責任と使命が生まれるのです。

繰り返すと、「国家の物語」とそれに伴う愛国心の回復は、私たち国民が早急に取りかからなければならない、最大の事業です。 今回は、財政再建を例に、その必要性について述べました。次回は、野田総理の首相補佐官として、尖閣諸島問題に携わった私の経験を交えて、さらに「国家の物語」の必要性について、お話をしたいと思います。

北神 圭朗 前 衆議院議員/首相補佐官

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きたがみ けいろう

1967年生まれ。生後9ヶ月、父親の仕事の関係で渡米(ロサンゼルス)。 米国サーバイト高校卒業後、帰国し、京都大学法学部に入学。1992年、大蔵省入省、主税局総務課主任・係長、総理秘書官補、金融企画局総務課課長補佐、金融庁監督部保険課課長補佐などを歴任。2002年、財務省に辞め、民主党候補として出馬するも、次点で敗北。2005年に初当選し、2009年に再選。野田内閣で経済産業大臣政務官、内閣総理大臣補佐官などを務める。2012年の選挙にて次点で敗れる。World Economic Forum(ダボス会議)「Young Global Leader 2007」選出
 

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