経済成長への「病的な執着」は日本を滅ぼす 異端の経済学者・セドラチェク、吼える
――え、出版社の人間ではなかったんですか?
そのとき思ったのは、この人はちょっとおかしいのではないかと(笑)。だいたい、善と悪とか、倫理とか、こんなオルタナティブな方法で経済を扱って、読んでくれる人がいないんじゃないかと私は心配してたんです。
ところが、これは後から知ったんですが、彼は親戚から大金を借りて費用を出してくれたらしいんです。彼は、自分にはおカネがあるから、と言っていたんですが、実はそのとき文無しだった。
何かの間違いからベストセラーが生まれた
――それで、本が出版されてしまった?
はい。しかも、私の本の初刷は5000部でした。5000部と言ったらすごい部数です。このご時世、チェコでは最初から5000部刷るなんてありえません。でも恥ずかしいというか、うれしいというか、出版後に彼から電話が来て、1週間たらずで、なんと完売。
そのあと彼は、イケアの袋に私の本をたくさん入れて、何のアポもなしに、いきなりフランクフルトブックフェアに売りに行ってくれたんです。ドイツで一番大きな出版社のブースに行って、「チェコで1週間で5000部売れたすばらしい本だから、版権(翻訳権)を買ってくれ」とアピールしたんです。
でも、やはり門前払いされてしまった(笑)。しかし結局、チェコ共和国初代大統領のヴァーツラフ・ハヴェルが「前文」を寄せているのに興味を示してくれたり、いろいろあって、オックスフォード大学出版会から英語版を出したいという話が来たんです。でもその情報が入ったとき、私はだまされていると思いました。そんなこと、ありえないと。しかし本当だった。
――資本の論理とはなにか別のものによって、本が生まれたと。
私は、最初から本にするためにモノを書いたわけじゃないし、飲み屋で知り合った彼にしたところで、「おカネのため」というだけではなかったのではないでしょうか。言ってみれば、なにかの間違いで、本が生まれた。資本主義の本質、人間の欲望を問い直そうとした本書『善と悪の経済学』は、そんな運命的な出自を持っているんです。
(撮影:尾形 文繁)
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