それだけ多い有給休暇にもかかわらず有休取得率は80%を超える。その理由を東武鉄道人事部の岩澤貞裕課長は次のように説明する。「鉄道は365日毎日動いているため、駅員や車掌、運転士、保全を担当する現業部門の社員は一斉に休みを取ることができません。しかしシフト制で勤務しているため、計画的に休みを取得できます。それが高い取得率につながっていると思います」。
一方、事業運営企画や業務管理などを担う本社部門は土日、祝日が休日となっているが、かつては有休取得率があまり高くなかったという。鉄道が毎日運行している中で、有休を取得しにくい雰囲気があったというのだ。しかし、ひとつの出来事をきっかけに状況が一変した。それは、東日本大震災後の節電対策だった。
節電対策が取得拡大の契機に
2011年、電力供給がひっ迫していたため、夏場の節電が叫ばれていた。電力使用量の多い鉄道各社は、日中時間帯の運行本数の見直しなどの節電対策を行った。その一環として、本社部門でも、8~9月のうち平日の10日間(毎週1~2日)を夏期休業日に設定し、電力消費を少しでも減らす対応をした。この休業日は、下期の一部土曜日と祝日を出勤日に振り替える形で捻出したものだったが、出勤日となったその土曜日や祝日も有休を使って休むように推奨したので、結果的に有休取得率が高くなったという。節電対策が思わぬ効果をもたらしたのだ。2012年以降は夏場の金曜日を夏期休業日とし、下期の祝日を出勤日に振り替えるようにしていた。
しかし、金曜日にどうしても出勤しなければならない社員が相当数おり、一斉に休むのが難しいことから運用を変更。今年から一斉休暇を終了させる代わりに7月の第3金曜日から9月の第3金曜日までを「計画年休」と定め、この間の金曜日のうち5日、それ以外に有給休暇を4日取得することを目標にして、計画的な有休取得を推奨することにしている。「金曜日に部門をまたぐ打ち合わせを入れない、役員に金曜日に積極的に休んでもらうなど、休みやすい環境を作っています。多くの社員が休暇にすることでエアコン代も抑えられ、サマータイム制よりもエコに貢献できているのでは」と岩澤課長は語る。
さらに2010年からは本社部門だけだが、1時間単位の有給休暇制度を導入している。1時間単位の有休は労使の合意があれば最大5日分、有給休暇を時間単位で取得できる制度で、東武鉄道も年間最大40時間分、私用での中抜けなど1時間単位の有休の取得が可能だ。これに加えて加算休暇を終業時間の繰り上げに使うことができ、それが最大56時間分にもなっている。こうして小分けに有休を取れる制度がつくられたことで、おのずと取得率は上がる形となっている。
「現業部門はシフト交代で有休を取るという文化が元々あり、そういった社員が本社に異動することで、総合職も皆が助け合いながら休んでいく風土も醸成されていると思います。外部と関わりのある部署の取得率は他と比べると低いかもしれませんが、休暇に対する意識は高まっています」と、岩澤課長は分析する。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら