それまでのソフトウエアは、開発会社がパッケージ製品として売り付け、ことに企業向けソフトならばメンテナンス付きで多額の費用がかかった。アップデートにも手間と時間がかかり、何か不具合があったり改訂を加えたいということになったりすると、開発会社の社員に来てもらわなければならない。また、結果的にさほど利用することはなくても、価格は一定なので無駄を承知で支払うことが当たり前だった。
ところが、ベニオフのやり方によると、ソフトウエアはインターネット上で刻々とアップデートされ、利用料金も使う人数に従って支払えばいい。そして、サーバーやソフトウエアのための多額の初期投資なしに、その日からでも必要なソフトウエアを使い始めることができるのだ。
しかし当時、ベニオフの言うことは世間には”まゆつばもの”ととらえられた。そもそもブロードバンドがそれほど行き渡っていなかった。インターネット自体への信頼感もなく、接続が切れたり、無法者がうろうろしたりしているような場所と受け止められていた。
だから、そんなところへ企業のビジネスの“肝”であるソフトウエアを託せるわけがない、というのが大方の見方だったのだ。大切なソフトウエアはしっかりしたソフトウエア企業が開発し、自社の管理の下に厳重に運営するというのが定まったやり方だったわけだ。
しかし、それから十数年。ネットへの信頼感が増し、何よりもセールスフォースのアイデアあふれる製品やサービスによって、同社は中小企業を中心にどんどんユーザーを増やし、現在ではGEやトヨタなどの大手企業も利用者として名前を連ねるようになった。
同社は、クラウド型ソフトウェアのサービス企業として、押しも押されもせぬ大企業に変わったのだ。そして、セールスフォースの後を追って、今や無数の企業がクラウド型サービスに進出している。まったく新しい業界自体をベニオフが作り上げたともいえるのだ。
硬直した上下関係すら、融解させる
ただ、注意すべきは、ベニオフが推進したクラウドのサービスの重要な点は、単なる技術の革新だけではないということだ。それは、ビジネスの方法や組織のあり方にも大きな変革を迫るものなのである。
たとえば、先述したような巨額の初期投資がいらないことで、中小企業が大企業にも負けないようなソフトウエアを揃え、同じ土俵でビジネスに挑戦できるようになった。利用に応じた料金を支払うので企業はコストを節約して、もっと重要な分野へ資金を向けられるようになった。
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